日本で活躍している呉智深茨城大学教授
呉智深氏は1961年6月生まれ。86年中国東南大学大学院終了。90年名古屋大工学博士課程終了。名古屋大助手、米ノースウェスタン大客員研究員、埼玉大講師・助教授、茨城大助教授、工業技術院・産業技術総合研究所主任研究員などを歴任。02年茨城大学教授に就任。研究テーマは「材料・構造およびセキュリティシステムのセンシング・モニタリング・インテリジェント化」「連続繊維構造材の創出と高度化」など。日本文科省科学技術振興調整費研究課題など、各種大型研究や産学官共同研究、国際共同研究を推進し、各種国際学術誌の編集や国際学会の運営に参画。受賞や著書多数。公職は日本新華僑華人会会長など
呉智深氏は茨城大学教授として、専門分野の安全工学のほか、複合繊維をはじめとした幅広い分野の研究を行っている。また、日本新華僑華人会会長などをつとめるなど、日中友好にも貢献しているという。はたして、呉氏はどのような思いを抱きながら、日中友好に尽力しているのだろうか。
取材は張国清北京放送東京支局長である。この取材内容は日本東方通信社の週間雑誌「コロンブス」2008年7月号に掲載されている。
安全工学と繊維分野の研究で 日中両国の発展を支えたい!! 呉智深茨城大学教授
張国清:呉さんはいつ来日したのですか。
呉智深:私が来日したのは86年のことです。それまでは南京の東南大学で勉学に励んでいました。
張 どういったキッカケで来日したのですか。
呉 私は東南大学で建築や都市工学を学んでいたので、日本には興味を持っていました。とくに地震防災に関する日本の技術が高いということは有名でしたから。欧米留学も視野にありましたが、食生活などのことも考慮し、日本留学を決意しました。留学した先は名古屋大学です。
張 日本に来てどのような印象を受けましたか。
呉 最初に苦労したのは食べ物でした。東南大学の先生は「日本には中華料理の店がたくさんあるから、食事の心配はしなくていい」といっていたのですが、それは間違いでした。というのは、日本の中華料理は、どれも日本風にアレンジされていて口に合わなかったのです。ですが、逆に好きになったものもあります。私は子どもの頃から、ラーメンがあまり好きではなかったのですが、日本のラーメンを食べてみると、これが口に合ったのです。
張 日本語についてはいかがでしたか。
呉 あまり話せないうちに来日したので、最初の頃は日本語よりも英語を使っていたぐらいです。とくに、むずかしい内容のことを伝える際は、自然と英語で話すようになっていました。ですが、恩師から「日本に来たからには言葉を通じて、日本の文化や真相も学ぶべきだ」と指摘され、それを機に日本語の勉強に力を入れるようになりました。おかげで、今ではむずかしい内容の話でも日本語を使ってコミュニケーションができるようになりました。
張 現在、呉さんは日中の架け橋として活躍していますね。
呉 大学で研究をしているうちに、しだいに中国に帰って国に貢献したいという思いが、強くなってきました。しかし、中途半端な知識や能力では、何の役にも立たないということもわかってきました。そこでこの際、遠方のアメリカではなく、中国に近い日本を拠点にして頑張ってみようと考えるようになったのです。おかげで、今は日中両国の役に立つような研究や活動を行えるようになりました。
張 具体的にはどういった研究を行っているのですか。
呉 まずは安全工学です。都市やエネルギーシステムの安全、省エネ、環境などを研究しています。たとえば、地震やテロに強い構造システムをどう構築するか、地震が生じた後にどのように復旧作業を行うべきか、二次災害などの可能性はどうなっているのかといったことを研究しているのです。そのなかで私が新しいテーマとして掲げているのが、都市・エネルギー・宇宙構造物およびセキュリティシステムのインテリジェンス化です。構造物自身が自己感知と自己修復・治癒能力を持つことで、自分でマズい箇所を感知すると同時に、小さな損傷であれば自動的に修復してしまうようなシステムについて研究しています。つまり、人間に神経があるように、構造物のなかにも光ファイバーのようなセンシング網を張り巡らせて、それに神経のような役割を持たせるわけです。そうすれば、突発的な災害を回避でき、地震が起きても構造システムのどのあたりに問題が生じたのかをアッという間に調べることができるのです。
張 連続繊維構造材に関する研究にも力を入れていますね。
呉 そうです。とりわけ力を入れてきたのが炭素繊維で、十数年にわたって取り組んできました。ちなみに現在、私がもっとも注目しているのがパサルト繊維です。これは玄武岩を1500℃で溶かして、繊維化したものです。環境にやさしいだけでなく、炭素繊維並みの強度を持つ可能性があります。しかも、放射線を遮断する能力や高い耐熱性を持っているので、開発が順調にすすめばエネルギーや航空宇宙産業での利用も考えられます。また、最近の脱ガラス繊維の流れのなかで、ガラス繊維に取って代わる可能性もあります。私はパサルトに関する日中協力を推進するとともに「国際パサルト繊維協会」を立ち上げていきたいと考えています。
張 そういった研究については、日本と中国のどちらと行うのですか。
呉 産学連携については、日本企業とも中国企業とも行うようにしています。もちろん、たがいの守秘義務はキチンと保持しながら、両国の利益につながるような研究をすすめたいと思っています。その取り組みの一環として、私は日中環境・エネルギー技術交流機構を立ち上げる予定です。
張 呉さんは日本新華僑華人会で会長をつとめていますが、日本新華僑華人会とはどういった団体なのですか。
呉 日本には約50万人もの新華僑がいるといわれています。そして、商業、学者や技術者、文化人、弁護士といった職業ごとに組織をつくっています。また、地域別につくられた組織もあります。しかし、これまでそれらをネットワークする団体はありませんでした。そこで、それらの団体の連合会として、日本新華僑華人会を立ち上げたのです。現在19の構成団体を持ち、日中友好の促進、国への貢献といった活動を展開しております。
張 幅広い分野で活躍されていますね。今後も日中両国のために頑張ってください。
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