莫邦富 作家・ジャーナリスト
1953年中国上海市生まれ。上海外国語大学日本語学科卒。同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言をつづけている。また「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させたことでも知られる。ベストセラーに『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』などがある
四川大地震が発生、突然の大震災をもたらした。 来日23年目の中国人ジャーナリストの莫邦富氏は 今こそ「地震大国ニッポンのノウハウや 経験などを学ぶべきだ」と説く。 そして、そうすることで 日中関係はさらに踏み込んだ関係になる、と。 莫氏の見解を聞いてみた。
取材は張国清北京放送東京支局長で、取材内容は日本東方通信社の週間雑誌「コロンブス」2008年6月号に掲載されている。
四川大地震を乗り越えるには 日本の協力が必要だ!!
張国清:莫さんはいつ来日したのですか。
莫邦富:私が来日したのは85年のことです。私は日本からの奨学金で来日しました。といっても、奨学金が出ていたのは最初の1年だけで、それ以降は自分で学費や生活費を稼がなければなりませんでした。
張:大学ではどのような勉強をしていたのですか。
莫:中国でも日本文学を研究していたので、日本でもそのまま日本文学を研究していました。ちなみに、当時は日本語や日本文学を勉強している中国人はほとんどいませんでした。ですから、私は日本文学を手探りで学び、それを中国に紹介するという仕事を手がけていたのです。今考えれば、日本文学には日中友好のヒントがイロイロと隠されていました。たとえば、靖国問題を考えるうえでは、大岡昇平の『野火』が非常に参考になります。当時の日本人がどのような気持ちで戦争に臨んだのか、そしてどのような気持ちで靖国神社を捉えていたのかを知ることができるからです。しかし、私の印象では日本の学生はあまり日本文学について知りません。もっと日本文学を学んで、なぜ日中友好でなければならないのかという基本的なことを考えてほしいですね。
張:日中友好に関して、何が大切なのでしょうか。
莫:私は随分前から、中国は日本に学ぶべきだと発言しつづけてきました。先日、胡錦濤氏が来日した際に、一部のマスコミが「中国が日本回帰」と報道しましたが、これは嬉しい傾向だと思います。これからの中国はもっと日本に学ぶべきだと思うからです。しかし、実は中国はもっとはやくこのことを宣言していました。昨年、温家宝氏が来日したとき、氏は「日本にも学ばなければならない」という発言をしていたのです。が、その発言を中国のメディアは報道しなかったのです。
張:中国は日本のどのような点を学ぶべきなのですか。
莫:先日、中国の四川省は大震災に見舞われました。この地震は阪神大震災の25倍の規模といわれていますが、建物やインフラがもっとシッカリしていれば、ここまでの被害は出なかったと思うのです。その点、日本の建築技術や災害に対するインフラは非常にすすんでいます。そのあたりを習得して、二度とこのような被害が出ないように努めなければならないのです。具体的には、地震に強い日本の建物の構造などを学ぶべきだと思います。たとえば、日本の高層ビルのエレベーターホールには気圧が高めにかけられています。そうすることで、火災が起きても、煙や炎が上層にいかないようになっているのです。また、日本の学校にも見習うべきところはたくさんあります。四川大地震では多くの学校が倒壊してしまいましたが、日本の学校は地域の避難所にもなっています。つまり、日本の学校はほかの建築物以上に頑丈な造りになっているのです。こういったノウハウは、数多くの災害を経験してきた日本ならではのものです。だからこそ、中国は日本の経済的な部分だけでなく、こういった点も見習わなくてはなりません。そして、そのためにも「謙虚に学ぶ」という姿勢を大切にすべきなのです。
張:ところで、かつて多くの日本企業が中国に進出しましたが、最近では製造拠点を東南アジアなどに移すケースが増えているようです。そのあたりについては、どのように思われますか。
莫:中国では経済成長とともに人件費などが高騰しています。経済的に考えれば、これ以上中国で労働集約型の単純な加工業を行うのは限界だと思います。ですが、中国には巨大なマーケットがあることを忘れてはいけません。目先のことだけを考えずに、そのあたりにもシッカリと目をつければ、中国が日本にとってなくてはならない存在であることがわかるはずです。
張:これから日中友好をすすめるためには、どのようなことが大切ですか。
莫:中国側の姿勢も大切ですが、日本の協力も必要だと思います。私たちが来日したときと最近の日本では、中国に対する見方は大きく変わったように思います。それは中国が後進国から新興国へと成長したことが原因だと思います。かつての日本は、中国のことを後進国ということでやさしく接していました。ところが、最近は中国の成長ぶりに脅威を抱いて、どこか敬遠しているように思えます。とはいえ日本と中国の差はまだまだ歴然としています。多くの日本人がGDPばかりを気にする傾向がありますが、ノルウェーやデンマーク、オランダなどを見ればわかるように、国力はそれだけでは計りきれません。たとえば、社会インフラなどのソフトの部分を考慮すれば、日中の差は一目瞭然です。そのことを理解して、日本にはもっと自信を持ってもらいたいと思います。そして、寛容な態度で中国を受け入れ、ウィン・ウィンの関係を築いていくべきだと思います。
張:最後に莫さんの目標についてお聞かせください。
莫:来日したときからの目標ですが、『日本論』を書き上げたいと考えています。
張:それはおおいに期待したいですね。本日はありがとうございました。
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