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お勧めの一冊 『素顔の中国』(吉村澄代著)
   2008-03-07 15:52:51    cri

ありのままの生活者の視線に魅せられて

21世紀初頭、変わり続けている北京の貴重な記録

ーー『素顔の中国ーー街と人と暮らし55話』(かもがわ出版、2007年12月

 「…急速に変貌する北京の町で、地域が大きく取り壊されてゆく風景を見ているうちに、その地の住民や農民たちはどうなるのだろうか。そんな疑問が頭をもたげてくるとともに、私は人々の暮らしの姿が気になって仕方がなかった。経済発展で生活の姿がまるで変わってゆく……。市民たちは、子どもたちは、お年寄りは、それにどんな思いを抱いているのだろうか……。」

 「生活者の目線で見る北京の街は、国家の経済発展のすさまじいスピードの中にあって急速に変容しつつも、昔ながらの姿もそのまま包み込む、なんとも心癒される面持ちをもつ。それは、ハイテクを駆使する最先端から、レンガを一つ一つ積み上げる建築の従来工法や人海戦術をも受容する柔軟な技術空間……。オフィス街を闊歩するビジネスマンやキャリアウーマンから、胡同の陽だまりで象棋に興ずるお年よりたちまでを包括する不思議な時間空間など、せからしい日本人には想像もつかない新と旧、緩と急、静と動の見事な調和なのだ。」(『素顔の中国』から)

 ダイナミックな赤い流線型のラインにピンクの地。朗読している小学生に、公園で社交ダンスを楽しむ熟年アベック、作品の創作に専念する飴細工の職人に、三輪車の後ろに孫と夫を乗せて元気良く町を走りぬける白髪のおばあちゃん。本のカバーを飾ったのは、生活感に溢れ、人間くささたっぷりの四枚の写真。

 著者は私の元同僚で、中国国際放送局元日本人専門家の吉村澄代氏。

 「意図的に良く描いたり、悪く描いたりはせず、日ごろの生活で感じた中国を、ただ、ありのままに、忠実に日本人に紹介したい」。

 一緒に仕事していた頃、良く聞かされていた吉村さんの言葉が思い出されます。その言葉どおりの本の完成を心からお祝い申し上げたいです。

 2001年9月、中国国際放送局での勤務開始から去年年末まで、「北京で暮らしていた日々の出来事のメモをもとにして」纏め上げてあり、「人びとの暮らしに溶け込んで」、「変わりゆく中国を見つめて」の二部構成で、55本のエッセーが収録されています。

 一部は私家版ミニコミ誌「北京時空」を通して拝読したことがあるとは言え、一冊を通して読ませてもらうと、改めて感動と敬服の念が湧き、また、中国人の視点からでも興味深く読ませてもらえました。 

先ずはその細やかな観察力と調査力。

 北京の交通が渋滞しやすい背景に、「道路の敷設計画の不整合」がある。二両連結バスは定員180人、全長は18メートルある。そして、07年7月まで、北京市の公共交通ICカードはすでに1100万枚に達している。

 北京市民にとってごくありふれたことであり、考えることすらしなかった生活の細部まで、きめ細やかに観察し、調査している。なるほど、こういうところに日本人は興味があったのか。中国人として逆にこの視点から、面白く読めた。 

続いては、その衰えない好奇心と行動力。

 中国の朝ご飯や北京のグルメ、大学の食堂、結婚式、老人ホーム、家政婦学校などなど。一つ一つはすべて現場に行って、自ら体験してきたことがもとになっている。さらに、春節の縁日から、爆竹解禁後の市内の爆竹販売所、それに、都市開発の波に押されて変貌しつづけている胡同、五輪聖火リレーやマラソン大会が行われているストリート、民宿観光で村おこしをしている北京郊外の農村、ひいては内蒙古のシリンホト大草原。

 「文章は手で書くもののではなく、足で書くものなのだ」。昔、万里の長城の徒歩調査で鍛えた足腰で、こつこつと北京と中国を歩き続けている吉村氏の姿が目に浮かぶ。

また、教育学の研究者ゆえの、中国の教育事情に対するぶれない関心にも注目できる。

 本の中で、教育が大きなテーマに位置づけられています。都市部小中学生の学校教育に、出稼ぎ労働者の子どもたちの学校、大学入試や大学事情などなど。著者の一貫した関心が通っています。良く研究された深みのある内容が、分かりやすいタッチで描かれてあり、中国人にとっても、深く考えさせられるものが数多く紹介されています。 

最後に、時空を記録するという視点から、この本の貴重さを指摘したい。

 SARSの真っ最中の中国の状況記録だけでなく、55話の文章はいずれも、急激な変貌を遂げている21世紀初頭の中国に対する貴重な記録だと思います。また、この間は、中日両国の関係と人々の付き合いにおいても、さまざまな変化が起きた時期でもあります。著者は、中国で暮らす一生活者の視点を貫徹させ、中国の市民と同等の目線で周りを観察し、率直に感じたことを書き留めています。誇張はせずに、白描の手法を貫いているからこそ、時を隔てて改めて読み直された時にも、きっとその光が失せることはないと信じています。(王小燕)  

「近年、中国に関する一般書もずいぶん増えてきた。それらは日中関係の動向の「政冷経熱」を反映して、中国を政治体制から分析するもの、経済体制から分析するものと大きく二極分化している。さらに、日中関係のトラブルのたびに、それらについてネガティブなもの、ポジティブなものそれぞれが本屋に氾濫してきた。そして、どちらかといえば前者が多勢であるのが昨今の傾向である。それらの書物で理解する中国像ももちろんそれぞれに意味があるだろう。しかし、中国の一般の人々の生活はどういうものか?に答える本については残念ながらあまり目にしない。」

「一般生活者レベルの相互理解と交流が要求されている…(中略)中国人たちが日本社会で何気なく生活する時代はもう始まっている。われわれ日本人はもっと中国の一般生活者レベルの情報を知らねばならないのではないか。それが、自分が北京でここ数年生活していくる中で得た実感であり、この本を出版する決意にもなった。」(『素顔の中国』から)

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