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トン族最大の集落「肇興トン寨」
   2008-05-22 20:56:08    cri

     

 広大な中国には、全部で56の民族が暮らしています。そのうちのひとつがトン族です。

 トン族の人口はおよそ298万人。主に中国南部の貴州省や湖南省、広西チワン族自治区に暮らしています。

 全人口の半数を超える160万人が暮らすのが、貴州省です。この貴州省に、トン族最大の集落と言われる「肇興(ちょうこう)トン寨」があります。貴州省の省都・貴陽から南東の方向へ飛行機で40分のところに、黎平という街があります。ここから車でさらに2時間走ると、「肇興トン寨」に到着します。

 「肇興トン寨」の「寨」は、中国語で「村落」の意味です。ですから「肇興トン寨」はさしずめ「肇興トン族村」といったところでしょうか。

 「肇興トン寨」は、四方を山に囲まれた平野にあります。村の周りには棚田や森林が広がり、緑豊かな環境です。村の人口は800世帯4500人。住民たちは農業や機織りなどをしながら、昔ながらの暮らしを営んでいます。

 村の家屋はすべて木造りで、少数民族らしい独特の風情があります。時を知らせる太鼓が取り付けられた楼閣式の建物「鼓楼」や「風雨橋」など、村のあちこちには見事な伝統建築物が点在しています。

 建物だけではありません。「肇興トン寨」は「歌と踊りの里」とも呼ばれています。祭りの日、村人達は歌や踊りで競い合い、大変にぎやかなのだそうです。

 この「鼓楼」「風雨橋」、そしてトン族の歌は、「トン族の3つの宝」とも呼ばれています。

 「3つの宝」のひとつめは「鼓楼」です。最上部に、敵の侵入や火事など緊急事態を知らせるための太鼓が取り付けられていることから、「太鼓の楼閣」すなわち「鼓楼」と呼ばれています。トン族の村には、必ずこの「鼓楼」があります。「鼓楼」は、トン族の集落のシンボルとも言えます。

     

 「肇興トン寨」の「鼓楼」の高さは10数メートル。すべてが木で作られており、釘は1本も使われていません。楼閣の屋根には、トン族の伝説が絵画や彫刻の形で表現されています。「トン族文化の集大成」とも言える見事な作りです。現在は本来の時計台としての機能はほとんどありませんが、村の寄り合いの場として人々に親しまれています。

 「3つの宝」のふたつめは「風雨橋」です。雨や風をしのげる屋根がついていることから、その名が付けられました。橋には美しい絵画が描かれているので、別名「花橋」とも呼ばれています。「風雨橋」は、トン族の建築様式を代表する建築物です。

 そして、「3つの宝」のうち最も有名なのがトン族の歌です。中国の少数民族は、歌や踊りが得意な民族が多いですが、中でも貴州省では「歌のトン族、踊りの苗族」という言葉があるほど、彼らの歌は有名です。トン族の歌で最も有名なのは、「トン族大歌」です。「大歌」とは合唱形式で歌う歌のことで、昔から代々歌い継がれてきました。内容は、人々の暮らしや男女の恋愛のほか、昔話や道徳を歌にしたものもあります。「大歌」を歌うとき、指揮者はいません。人々はアドリブで自分のパートを歌いながら、大きなハーモニーを生み出していくのです。

      

 トン族は、自分達の文字を持たない民族です。民族の歴史や社会、生活、倫理、道徳などはすべて歌という形で記録し伝えてきました。彼らの歌には楽譜などありません。すべて、口伝えされてきたのです。子供たちは言葉ができるようになるとすぐ、歌を学び始めます。歌を通して、トン族の文化を受け継いでいくのです。

 トン族の歌は、種類が多いことでも知られています。「トン族大歌」とあわせて有名なのが、「琵琶歌」です。トン族の人々は、琵琶を弾くのが上手です。この琵琶の伴奏にあわせて歌う歌が「琵琶歌」です。「琵琶歌」のメロディは100種類以上ありますが、そのほとんどがラブソングです。思いのままに、歌詞をアドリブで作って歌うことが多いそうです。

 農作業に向かう道の途中で、仕事の合間で、一家団らんの場で、トン族の人々は歌を歌います。トン族の諺に『食事は体を養い、歌は心を養う』という言葉があります。この言葉は、トン族の人々の歌に対する思いをよく表しています。大自然への愛や生活への感謝を歌に込めて、彼らは歌うのです。歌は彼らにとって、心のよりどころであり、夢であり、信念でもあります。トン族の歌は、民族の歴史を記録しながら、これからも伝えられていくことでしょう。4月下旬、8日間の日程で貴州省を取材してきました。貴州省は多くの少数民族が暮らしていることで知られています。今回は、トン族のほか、苗族やブイ族の集落も訪ねることが出来ました。訪問する先々で、踊りや歌で迎えてもらいました。その美しさに感激したのはもちろんですが、何よりも心打たれたのは、彼らの勤勉さ、そして、自分たちの文化に対する情熱でした。

 今回ご紹介した「肇興トン寨」は、山の奥深くにある集落です。現在は村まで道路が通っていますが、以前は外界との往来はさほどなかったようです。人々は昔から、野菜や稲を栽培して、自給自足の生活を続けています。山間の村なので、平らな土地が限られており、山の斜面に棚田を作って農作業を行っています。棚田では機械を使った農作業が難しく、水牛を使ったり、人々が手作業で稲を育てていました。みんな真っ黒に日焼けして、農作業のし過ぎで手の節が変形してしまった人もいるそうです。

 作業は大変そうでしたが、人々はとても明るく楽観的でした。彼らは暇が出来ればすぐ、歌を歌い始めます。祭りともなれば、村を挙げて歌や踊りで競い合うのだそうです。歌や踊りがいつもそばにある生活。何と幸せなことだろうか!と、ついうらやましい気分になりました。

 トン族にはトン族固有の言葉があります。彼らが何を歌っているのか聞き取ることはできませんでしたが、彼らの歌声には何か心を捉えて離さないものがありました。その歌からは、故郷への愛、自分たちの文化への誇り、そして強い信念が確かに感じられました。

 トン族は文字を持たない民族です。文化や伝統は、歌によって口伝えされてきました。ある村人の、4歳になる子供が歌を聞かせてくれました。幼いながら、とても美しい歌でした。子供の母親は、「歌えるようになるまで教えたいです。そして、いつまでも歌ってほしいです」と話していました。

 中国で近代化が進むにつれて、トン族の村でも、都会へ出稼ぎに行く若者がいるそうです。しかし、多くの人が、「いつまでも、この美しい村で暮らしたい」と願っているようでした。

 故郷に対する愛があるからこそ、彼らの文化は変わらず受け継がれてきたのでしょう。そしてこれからも、代々伝わってゆくのでしょう。(文章:李軼豪)

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