北京の「四合院づくりの喫茶店」といっても、最近はそれほど真新しさを感じない。四合院とは中国伝統の建築様式で、中央の庭の周り、東西南北にそれぞれ棟を配置するというものである。これを現代風に改造して、「ちょいお洒落」なバーやレストランにしたお店は多い。だが、お店にいざ足を運ぶとその「作られた感」にがっかりすることが多い。四合院造り、とはいっても、実際には「それに似せた」建物に過ぎなかったりする。
この「棉花塘」は北京に数ヶ所ある「四合院づくりの喫茶店」の一つである。だが、こちらは本物だ。北京の下町に完全に溶け込んだ正真正銘の「古きよき北京」なのである。
「棉花塘」は最近、お洒落な町として評判の中央戯劇学院近くにある。ただすんなりたどり着ける人は少数だろう。戯劇学院の南門を左手に見て50mほど東へ。左側を注意深く見ていると、やり過ごしてしまいそうな小道に、控えめに店名の看板が掛かっているのが見える。ただ、その看板も苔がかかって、はっきりとは読み取れないところが、また控えめだ。
蔦が一面に這う店の門を入ると、そこは古き良き時代の四合院を改造した「棉花塘」がある。中央の庭には樹齢400年を越えるという大木が座り、この四合院の「うそのない伝統」を物語っている。
まずは北側の平屋から、店に入る。店内はいくつかの小部屋に仕切られている。東西南北、どの平屋で過ごしてもよい。それぞれ内装が少しずつ異なる。中はセンスの良い家具と小物が並べられているが、いたって自然。お気に入りの場所があれば、テーブルに直行すればいいが、中は迷路のようなので、初めての人は服務員とともに店を見学し、気に入ったテーブルを見つけよう。部屋の奥に行こうとすると、服務員に止められることがあるが、それは仕切りの向こうに先客がいるということ。邪魔をするのは野暮というものだ。
テーブルに落ち着いたら、好きなコーヒー、そして自家製のクッキーを注文すればよい。(20元~30元)ソファーにゆったりと座って、数百年前から全く変わらないであろう庭を眺める。それに飽きたら、持ち込んだ小説を取り出して、文学の世界にひたる。いつまで座っていても、邪魔されることもない。空気が数百年前ですっと止まってしまったような不思議な空間だ。
賑やかな北京観光のあと、ほっと一息。伝統の四合院で味わう古き北京…。その至福の時を味わってみてはどうだろうか。(朝倉浩之)
棉花塘 住所:東城区交道口南 大街東棉花胡同35号
電話:(010)6405ー5775
営業時間:12:00ー1:00(深夜)
席数:約70席
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