せわしく車や自転車が行き交う今の北京で、周囲にお構いなくゆっくり歩いているお年寄りを見かけると、嬉しくなります。変化の激しい世の中で、悠々マイペースを保っている姿が、なんとも格好いいのです。
そんなお年寄りたちの足元は、ほとんどが伝統的な黒い布靴。スポーツシューズや革靴が好きな若い人には、もう見向きもされない靴ですが、とても履き心地が良さそうです。
一八五三年創業の、老舗靴店「内聯陞」で、布靴を探してみました。かつて毛沢東、周恩来、鄧小平もここの布靴を愛用した有名店です。今の主力商品は革靴になっていますが、布靴はまだ細々と売られ続けていました。
すべて手作りの布靴は、特に靴底に工夫が凝らされています。厚地の布を六枚重ね、大地に接する面に、麻糸を細かく刺します。すべりにくく、しかも通気性を良くするための技ですが、厚い布に刺し子をする作業は力が要り、職人一人、一日がかりで一足分しかできないそうです。
こうしてゆっくり作られる靴ですが、なぜか値段は大量生産の革靴よりずっと安め。マイペースで歩きたい日は、こんな靴を試してみるのもいいかもしれません。 (人民中国より 文・原口純子)
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