数年前まで、北京の地図帳を広げると、そこには役所や学校、映画館などに混じって、「日用雑品商店」、つまり日用雑貨を扱う店がきちんと表示されていました。何でも揃う大型スーパーが続々と街に進出してくるまでは、こうした商店は人々の生活に欠かせないものだったのです。
区域ごとに分かれた地図帳をさらにめくっていくと、およそ、どのページにもそんな商店があり、そこはまた中国の人たちの暮らしが見えてくる貴重な場でもありました。
冬が近づけば鍋が、春節が迫ると餃子を並べる蓋簾が、夏には涼しげなサンダルや帽子が店頭に並びます。暑さ寒さから身を守る中国伝統の知恵に感心したり、時には日本で売られているものと全く同じ商品を見つけて嬉しくなったり。店をめぐる時間は中国の暮らしを眺める小旅行のような楽しみがありました。
人々の暮らしが大きく変わった今、雑貨の世界にも大きな変化が起きつつあります。スーパーの店頭にはプラスチックの新製品が並び、「日用雑品商店」は、街から姿を消していこうとしています。
例えば10年後、中国の暮らしにはどんな雑貨が見られることでしょう。消えゆく雑貨たちに別れを惜しみつつ、新しい時代の新しい雑貨が紡ぐ次の暮らしの物語を楽しみに待ちたいと思います。(写真・佐渡多真子 文・原口純子)
|