ブリュッセルで行われたEU(欧州連合)首脳会議では、「欧州移民と難民保護条約」が批准され、欧州で統一的な移民保護体制がスタートしました。この条約は、経済のグローバル化が進む中、EU各国が移民問題に対応するための折衷案とされており、EUの保守的心理を浮き彫りにしています。
「欧州移民と難民保護条約」は、現在のEU輪番議長国フランスによって起草されたものです。今年7月には、非公式会議の場でEUの法相や内相から承認を得ました。先月行われたEU法相・内相会合では、この条約について意見の一致に達したあと、今回の首脳会議で正式に批准されました。この条約によりますと、加盟各国は、ニーズや能力によって、それぞれ合法的な移民管理活動を行うことが定められています。また、不法な移民を取り締まり、国境での検査を強化し、移民送出国としっかり協力することなども義務付けられています。中でも、欧州南部と東部の国境地帯で常駐指揮部を設置し、その国の政府と共に不法移民の取り締まりに当たるという内容には最も注目が集まっています。
EUは以前から数多くの移民を受け入れています。第2次世界大戦後、多くの移民は、労働力不足で悩んでいた欧州にやってきました。1970年代、欧州に進出したのは、アフリカやアジアからの移民がほとんどです。その後、EU・欧州連合が設立され、特に2004年以降は、EUの中でも、経済が立ち遅れた国から、先進国へ移民するケースが増え、その一部は不法移民になりました。欧州委員会のデータによりますと、現在、移民人口は欧州総人口の3.8%を占めているということです。
日増しに増えている移民は、欧州各国の社会、経済、文化、治安、それに政治にも大きな影響を与えています。EU経済が全面的に低迷していることもあって、移民問題が深刻な国では、移民は就職や生活の面で国民にとって脅威だという声が上がっており、右翼勢力もこれに便乗して人種主義や排他主義を煽ろうとしています。このため、一部の政府は、より保守的で厳しい移民政策を取るようになりました。今年7月、イタリア政府は、国内在住のロマ族の人口状況について調査を行い、未成年者を含むあらゆるロマ族の指紋を取りました。この措置はEUの内部でも非難を浴びており、不法移民の取り締まりを口実に人種差別を煽る政策だと指摘されました。一方、国連難民高等弁務官事務所も、難民の権利を守るようフランス政府に求めたこともあります。「欧州移民と難民保護条約」が7月に承認されたあとも、セネガルやベネズエラ、チリ、アルゼンチンなどの移民送出国から強く非難されています。
専門家によりますと、潜在的な社会問題を防ぐために、EU各国は厳しい移民政策を打ち出していますが、送還できない不法移民の問題や技術移民に関する問題をいかに解決するかについては、この条約で詳しく言及しませんでした。そこに、欧州諸国が移民によって労働力不足や人材不足を緩和しようとすると同時に、移民が自国の社会にマイナス影響を及ぼすことを恐れる心理が潜んでいます。欧州経済の低迷を背景に、EUの移民政策がより保守的なものになってきました。毎年150万人から200万人増加する新規移民を抱えるEUは、より開放的で実務型の移民政策を打ち出していくべきではないでしょうか。(翻訳:コオリ・ミン)
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