大都市では、高さん夫妻のようにペットを飼う家庭が一般的になった。早朝や夕方、住宅街の付近の緑地や並木道では、たくさんの人が犬の散歩をしている。
こういった現象はここ十数年のことで、それまでは、一般の中国人家庭でペットを飼うことは少なかった。一部の人が暇つぶしのために猫や金魚、ハト、小鳥などを飼うだけで、都市で犬を飼っている人はほとんどいなかった。農村で犬を飼うのは、番犬にするためだった。
改革開放以降、人々の生活は変わった。熾烈な市場競争がもたらした大きなプレッシャー、どんどん速くなる生活リズム、家族の小型化、平屋に取って代わったコンクリートのマンション……。人々は、閉塞感と孤独を感じるようになった。
そこで、ペットを飼う楽しみに気が付いた。当初は、先に豊かになった人にしか犬を飼う余裕はなく、高級な犬はあまりいなくて、中国でもっともよく見かけるペキニーズでさえも1万元以上した。しかしここ数年、ペットの犬の種類はどんどん増えており、価格も少しずつ下がってきた。もともと1万元以上した犬も、今ではたった数百元で購入できる。それと同時に、一般の人々の生活もよくなったので、家で犬を飼う人も増えてきた。
犬を飼うのが好きなのは、中高年が少なくない。ほとんどが、すでに定年退職をしているか、あるいは子どもが成人して家を出てしまった人である。これまでの忙しい仕事や生活から突然解放されて、静かな暮らしになり、それに順応できなくて戸惑う。そんなとき、人の心に通じている犬は、飼い主の孤独を紛らわし、楽しいパートナーとなってくれる。
数年前に定年退職した郭さんは、毎日公園に行って体を鍛えている。家では習字をしたり絵を描いたりと、ゆったりとした生活を送っている。郭さんの一番の楽しみは、週末になると息子が孫を連れて会いに来てくれることだった。しかし昨年、息子一家はオーストラリアに移民してしまった。その際、飼っていた小犬を郭さんの家に置いていった。
郭さんはもともと、ペットに興味はなく、「巴巴」という名のその小犬を、仕方なく飼ったに過ぎなかった。しかし幾日もたたないうちに、「バーバー」は息子一家を恋しがり、目に涙をためて、何も食べず何も飲まなくなった。これを見た郭さんは、驚くと同時にとても感動した。そして「バーバー」を慰めているうちに、2人は気持ちが通じ合うようになったのだ。
それから後、郭さんが遠く異郷に住む息子や孫を思い出すたびに、「バーバー」は傍にやって来て鳴き、郭さんのズボンの裾をくわえて外へ引っ張っていくようになった。2人で外の緑地を何回かまわると、気分がよくなる。今では、2人は互いに頼り合って生きている。郭さんは「バーバー」のためにタバコと酒をやめた。また、退職金のかなりの部分を「バーバー」のために使っている。
ーー「人民中国」より
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