「子ども、未来、光、希望、平和」
大江健三郎と中日青年作家交流会議
――中国社会科学院外国文学研究所許金龍研究員をインタビュー
■大江健三郎さんと中国の「絆」:魯迅、根拠地、人民本位
――許さんは大江作品の有名な翻訳者ですが、大江さんと中国のかかわり、「絆」をご紹介いただけませんでしょうか。
大江健三郎さんと中国の「絆」を振り返ってみると、彼の子供時代から話さなければなりません。大江さんは、9歳で魯迅の作品に接触し、「故郷」、「孔乙己」などの作品を知りました。12歳から正式に魯迅の作品を読み始め、今まで続いているようです。22歳で書いた「奇妙な仕事」は魯迅に深く影響を与えられた作品です。「魯迅」は大江さんと中国を結びつける1つの「キズナ」と言えるでしょう。
もう1つは「根拠地」というものです。大江さんは子供時代に日中戦争を経験しました。中国共産党が毛沢東の「根拠地戦略」で戦争の勝利を勝ち取ったと思っている大江さんは、自分の小説「同時代ゲーム」の中でも「根拠地」を立ち上げました。「根拠地」の人々が自給自足で生活し、侵略しに来た敵に一緒に抵抗するのが大江さんが描いた「ユートピア」です。もし日本にも「根拠地」があれば、日本の歴史は書き換えられるかもしれないと彼は青年時代によく考えていました。
また、さらに昔にさかのぼると、孟子の「人民本位」の思想もよく彼の作品で表現されます。実は、魯迅も毛沢東も孟子の思想に影響を受けています。要するに、大江さんと中国の「キズナ」は魯迅、毛沢東の「根拠地戦略」や孟子の「人民本位」の思想だと言えます。
■「絶望から希望を見出す」、未来を担う中日青年作家
――その「キズナ」がどのように大江さんの作品で表現されていますか。
「絶望から希望を見出す」、「子供の光」は、大江作品の魂と言えます。最初に「未来は子供にあり」という言葉が魯迅の「野草集」の「希望」という文章に出てきました。大江さんは12歳でこの文章を読みましたが、その頃の彼はその意味を完全に理解していませんでした。60年をかけて、やっとこの言葉を完全に理解できたといいます。この60年間、大江さんはこの言葉への理解を深め続き、その軌跡が彼の作品にも反映されています。1957年のデビュー作「奇妙な仕事」を書いた当時、彼はこの言葉をまだ理解していませんでした。数十年後、彼は2007年の長編小説「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」でようやく「希望」を見つけました。この作品で、主人公の桜は絶望の中に希望を持ち続け、努力し続け、山村の女たちに助けられ、すれすれのところから「星が輝いている」天国に辿り着きました。大江さんは主人公の桜とともに、暗闇の中に希望や光を見つけ出し、「希望はある。絶望の中でも希望を追求しつつあれば、必ず手に入れられる」という結論を出しました。私が翻訳した中国語版の「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」は中国文学出版社の外国文学翻訳賞を授与されました。今、私が翻訳しているのは大江さんの最新作「水死」で、「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」と同じ思想が貫かれているので、姉妹篇と言えるでしょう。
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