■近くなりつつある中国と日本
――24年ぶりの中国国内での暮らしで感じたことは。
そうですね。不便に感じるところはありますが、痰の吐き捨てなどを除けば、北京で生活する分、東京とは物理的になんら変わらない。むしろ、北京にいるほうが面白い方たちにたくさん出会えます。良い意味でも悪い意味でも、個性の強烈な人が多いですね(笑)。中には、不愉快になることもありますが、多くの場合は非常に面白くて、良い刺激になっています。それに比べて、東京のほうは安心はしますが、いつも同じパターンで行動し、次に何を発言するかが予想できてしまう方が多いです。
――最近、中国から日本に観光に行く人たちが増え続けています。こうした動きをどうご覧になりますか。
とても良いことです。政治家同士ではなく、一般人同士の理解が進みます。その意味も大きいですが、中国の今後のサービス向上やモノづくりへの良い影響にも注目したいです。
中国はサービスが遅れている。店員さんの態度が悪い。しかし、消費者がそれを許してしまう。もしくは、ニセモノが出回っているのに、それをあきらめて「しょうがない」と思ってしまう。 しかし、日本に行ってみると、観光だけでなく、どこにもニセモノがなく、安心して買い物ができる。それに、旅館にせよ、ホテルにせよ、お店にせよ、どこも良いサービスをしてくれる。そういうホンモノを見て、触って、買ってきた中国人たちは当然、自国のサービスの遅れに実感を持つから、中には商売人もたくさんいるので、「中国でもホンモノのサービス、ホンモノの製品を作ろう」と思うようになります。これは中国にとってとても大事なことです。
中国はもともとホンモノ志向の人が多く、決してニセモノを作りたい民族ではない。だけど、今、一部の短期志向で、モラルの低い業者によって、中国人=ニセモノという悪いイメージができてしまいました。このように、日本とのコミュニケーションを深めれば、中国はもっとサービスと製品でホンモノ志向を表現していける国になると思います。
――中日のGDP逆転の動きについては?
時間の問題に過ぎません。そもそも一国のGDPは個々の国民の幸せとは連結しない数字です。人口規模で言いますと、13倍の差ですので、GDPで中国に抜かれたことで喪失感を味わう日本人がもしいれば、勘違いされていると思います。それよりも日本人の平均年収に着目してほしい。また、中国人の中にもこういうことを手放しで喜ぶ人はいないと思います。むしろ改めて中国がまだ遅れていると思うべきです。人数が多いからと言って、あわせた数字がやっと日本を越えたからといって、自慢するヤツがいるとすれば、よっぽどのバカだと思います。
ただ、GDPの規模拡大は、中国がこれまでたいへん遅れていた国からようやく普通の国に戻りつつあるプロセスにあり、そのプロセスはたぶん止まることがないという意味があります。また、プラザ合意以降の日本の動きを見れば分かることですが、為替レートの影響もあり、GDPはある意味、操作されている数字でもあります。だから、GDPの数値を用いて、向上している国あるいは後退した国と区分けしようとする発想を持つべきではないように思います。
――最後に、中日両国が今後向かう方向についてどのようにご覧になっていますか。
今の日本は、25年前、私が留学で行った時の日本と違うし、当然、今の中国も25年前の中国と違っています。どちらかといえば、25年前よりも、今の日中の方がずっとお互いに近づいてきました。生活水準も価値観も。そして、人々の平和に対する願望の強さにおいてもです。たった25年でこれだけ変わりました。
ぼくには今、小学生の子どもがいますが、この子たちが今の僕の年になった時は、ひょっとしたら今の中国と日本は、欧州のフランスとドイツのように仲良くなっている可能性が十分あると思います。その時は通関も統合されていると思いますが、きっとその前にFTAが締結されることでしょう。東アジアは、中国と日本だけでなく、韓国も含めて、経済の一体化が間違いなく益々進んでいく方向にあると楽観視しています。(聞き手:王小燕)
【プロフィール】宋文洲(そう ぶんしゅう)さん
ソフトブレーン株式会社創業者、現在は同社マネージメント・アドバイザー
1963年 山東省栄成市出身
1985年7月 中国東北大学工学部卒業
1985年9月 中国国費留学生として来日
1986年4月 北海道大学大学院に入学。
1990年3月 北海道大学大学院工学研究科博士課程修了
1991年3月 同大学博士号を取得
1992年6月 ソフトブレーン社を創設
2005年 ソフトブレーン東証1部上場
2006年 同社社長から取締役会長に退く
2006年 取締役を辞任、マネージメント・アドバイザーに就任した
2008年 生活の場を北京に移転
主な著書 『やっぱり変だよ日本の営業』(2002年 日経BP)など多数
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