これを聞いた韓さん、苦い顔をして言う。
「ちょっと、ちょっと。あんたとおいらはいま初めて会ったばかりだぜ?どうして始めたあったをあんたを重い鉄の棒で殴らなければならないんだい?」
「これは修行でござる」
「修行?まあなんでもいいけど、そんなに力比べをしたいなら、こうしよう」
「どうしようというのでござる?」
「簡単さ!おいらの曲げた指をあんたがまっすぐにできたらあんたの勝ちだということさ」
「ほう?申されたな。ではやってみましょうか!」
そこで、韓さんは左の人差し指をまげて白二の前に差し出した。そこで白二はさっそく、韓さんの曲がった指をぎゅっとつかまえたが、その隙を見て韓さんは、右手を出して相手の太い腰紐を掴み、大きな白二を軽々と頭の上に持ち上げると、えい!と遠くへ放り投げた。
こちら白二、大男である自分が人に頭上に持ち上げられ、軽々と放り投げられたのは生まれて初めて。それにいやというほど地べたに投げつけられたので、痛くてすぐには起き上がれなかった。
一方、韓さんは息もつかずに横ににある椅子に座ってニコニコ顔で自分を見ているではないか。これに白二も参り、やっとのことで立ち上がると、韓さんに近づき、「拙者は山東の知れた盗人の大物で、これまで負けたことがなかったが、今日は初めて自分より強い人物に出くわした。では失礼!」と言い残し、その場を去っていった。
このことがあってから、韓さんは、山東一帯でも怖がられ、この後二十年も用心棒をしたが、渡り合える相手は一人もいなかったという。
こうして韓さんは賞金としてかなりの金が貯まったので、今の仕事を一生やって暮らすわけには行かないと用心棒家業を止め、故郷の帰った。しかし、かの韓さんを雇った地主は韓さんに鉄の棒を残してもらい、その後二十年もこの棒を荷車において山賊らを怖がらせたという。
さて、当の韓さんは、ふるさとで田畑を買い、嫁さんもらって二人の子を儲け、ゆとりのある暮らしをして過ごした。
やがて五十年という月日が流れた。韓さんもこのときには七十を過ぎていた。
ある日。韓さんが他の人たちと大きな庭で獲ったばかりの麦を、鍬ですくってゆっくりと乾かしていると、不意に一匹の山羊がどこからかやってきた。
「ありゃ?山羊が来たぞ。この辺には山羊なんかいないはずなのに、おかしいな?」
これを聞いた韓さん、その山羊のほうを見ると、山羊は韓さんを一目見ただけで走り出し、近くの大きな井戸に飛び込んだ。さあ大変とみんなが騒いでいると、韓さんはなにかを思い出したのか、黙ってその井戸に飛び込み、助けだそうと山羊を持ち上げ、井戸の外へ出そうとしたが、不思議なことに韓さん自身も、宙に浮いてしまった。そして井戸から白い煙が出てきて、かの山羊は空のどこかえ飛んでいったが、韓さんは無事地面に尻餅をついて降りてきた。このとき韓さんは急に体中から力が抜けるような感じがしたので、これは五十年前に救ったかの道士が、自分のものを取り戻しに来たのだと悟った。案の定、そのときから、韓さんは力持ちではなくなり他の人と変わるところはなくなったワイ。
それでも、韓さんは元気で暮らし、なんと九十過ぎまで幸せに生きたというわい。
笑い話「酒を戒める」
山東で地方の長官を努めていた陳鎬は親孝行者で、これまで親に逆らったことがなく、何でもハイハイと答えていた。この陳鎬はかなりの酒飲みで、飲みすぎることが多く、時には不届きもあったりして上から睨まれていた。これを聞いた父が心配し、酒を戒めるよう陳鎬にきびしく言い聞かせた。そこで陳鎬は、書斎の壁や、自分の使っている徳利と杯に次のような言葉を刻んだという。
「父の命で酒を戒め、毎日大椀に三杯しか飲まぬ」とね。
なんですこれは?!!これじゃ、戒めたことに生りませんよねえ!
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