お腹を抱えて笑えることを一緒に〜90歳の黒柳徹子さんが中国で語ったこと〜

2024-06-06 21:29:49  CRI

 俳優、司会者、エッセイストの黒柳徹子さん(90歳)が先週、十数年ぶりに北京を訪問し、新刊『続 窓ぎわのトットちゃん』中国語版の出版記念イベント、北京外国語大学での特別講演会、学生との読書交流会など、精力的な活動を行いました。

 代表作『窓ぎわのトットちゃん』は、中国では誰もが知る超人気ベストセラー作品です。80年代に中国に紹介された『窓ぎわのトットちゃん』は、2003年に正式に中国語で翻訳出版され、これまでに1700万部を売り上げる大ロングセラーとなりました。中国では黒柳さんは「トットちゃん」の名で知られています。

  「世界中の大人にも子どもにも、平和の尊さが伝わったとき、私は心からこの本を書いてよかった!と思えるのだろう」

 『続 窓ぎわのトットちゃん』の「中国語版に寄せて」に綴られたこの言葉には、新刊に込めた黒柳さんの思いがにじみ出ています。

 さて、90歳の今も世界を飛び回る徹子さんとは、一体どんな方なのでしょうか。そして、「トットちゃん」は何故中国でこれだけの売れ行きを記録できたのでしょうか。

 この二つのテーマをめぐり、今回と次回の2回に分けてインタビューの内容をお届けします。今回は北京市内の書店で30日に開かれた出版記念イベントでの徹子さんの独占インタビューです。

■中国人と日本人「あの三つ子のパンダのように 仲良く元気なお付き合いを」

――徹子さんの初訪中は1984年。竹林の減少などによるパンダの食糧危機がきっかけでした。その時の思い出は?

 当時、私はWWFという世界の野生動物を守る団体で、日本委員会の理事を務めていました。野生パンダの実態調査のために四川省に行ったのです。そのときは、ぜんぶで16頭のパンダに会うことができました。人工授精で生まれた生後6ヶ月のオスの川川(チュアンチュアン)と仲良しになって、赤ちゃんパンダを抱っこするという子どもの頃からの夢も叶いました。たまたま緑色の服を着ていたせいで、私を竹と間違えたのか、パンダが私にかみついてきたのにはびっくりしました。

 ――パンダの可愛いところは? 

 体がモコモコの白と黒でできているところです。子どものころ、最初にパンダのぬいぐるみを見たときには、白黒のデザインかなと思っていたのですが、実際にパンダという動物がいると知ってからは、なぜ白と黒になったのか気になって仕方がありませんでした。その理由には諸説あるようですし、他にもパンダには解明できない謎が多いみたいで、そういうところも好きです。

 あと、顔が丸いのもかわいいです。ほかの動物はこわい時がありますが、パンダはどんな時もかわいいんです。

 とても賢くて、芸のできるパンダも知っています。可愛くてお茶目なだけなく、賢くて謎めいていて貴重です。個性の強さでいったら、動物界でもトップクラスだと思います。

――うわさでは、パンダと会うためお忍びで訪中したこともあったとか……

 あまり公表していないことなんですが、いまから十年前に、一人で中国に行ったことがあるんです。2014年の夏に広州で、世界でも珍しい三つ子のパンダが生まれたと聞いて、パンダ愛好家の私としては、いてもたってもいられなくなって……。事務所のスタッフに航空券とホテルを予約してもらって、飛行機に乗って4時間ぐらい。動物園では、まだ小さい三つ子のパンダを見ることができて、大興奮でした!でも、一人だったので、町の中華料理屋さんには行けなくて、食事はホテルのルームサービスですませました。

 あのときに会った三つ子のパンダたちは、今年の夏、なかよく無事に十歳の誕生日を迎えます。中国人と日本人が、あの三つ子のパンダと同じように、これからも仲良く元気なおつきあいができたらいいなと思っています。

――上野動物園で生まれたシャンシャンは、現在、四川省雅安のジャイアントパンダ保護センターで元気に暮らしています。シャンシャンへのメッセージは?

 なつかしい!シャンシャンが生まれたときは、すぐに上野動物園に見に行きました。子どもの頃からただ可愛いだけでなく、とても賢くて、きれいで立派な大人パンダになりそうな素質を感じていました。

 中国の竹は美味しいのかしら。パンダの故郷でもある土地で暮らすのは、やっぱり居心地がいいですか。

 日本で誰か別れたくなかった人やパンダがいますか。

 次に中国に来るときは、ぜひ会いに行きたいです。お元気でね。

中国で人気の「ファーファ」のぬいぐるみを抱く黒柳さん

 ■トットちゃん人気の背景 「中国の方は『おもしろいこと好き』」

 ――『窓ぎわのトットちゃん』の世界での発行部数は2500万部に上り、ギネス記録に認定されました。徹子さんの人生にこの本はどのような意義がありましたか?

  『窓ぎわのトットちゃん』がベストセラーになったおかげで、実現したことがいくつかあります。一つは、「トットちゃん」が英訳されて、それを読んだユニセフの方が、「こんなに子どものことがわかっている人なら」と、私をユニセフの親善大使に任命してくださったことです。子ども好きの私にとっては、望外の喜びでした。それから、トットちゃんの印税で、手話で狂言を上演する「日本ろう者劇団」を設立することもできました。小林先生の「みんないっしょにやるんだよ」という精神を、本だけでなく、別の形でも表現することができました。

――中国で1700万部のロングセラーとなったことを聞いた時の気持ちは?

 とってもうれしかったです。まず2017年に1000万部を超えたときにニュースになり、「中国では、あの『ハリー・ポッター』よりもずっと人気があります」と伺って、あんな世界的なファンタジーと比べたらうんと地味な、トットちゃんのありのままの体験を、中国の子どもたちが身近に感じてくださっていることに、とても感激しました。そして同時に、中国人に対して同じアジア人としての親しみを覚えました。

 今回の訪中でも、本当にみなさんが続編を楽しみにしてくださって、本を隅々まで読み込んでくださって、いろんな感想を伺えたことが、何より嬉しかったです。

 ――『窓ぎわのトットちゃん』の中国での人気の理由はどこにあるとお考えですか?

  「これを書くことで、こんな影響を与えられたらいいな」とか、そういう難しいことを考えてないからじゃないかな、と思います。『窓ぎわのトットちゃん』もそうですが、『続 窓ぎわのトットちゃん』にも、私がおもしろいと思うエピソードを書き並べました。それが、中国の方にも「おもしろい」と思ってもらえたみたいです。

 中国のみなさんを見ていると、「自分と似ているなあ」と思うことがいくつかあります。一つは、好奇心の強さです。かつて、中国訪問で「草原情歌」を中国語で歌って、間奏で京劇の真似をしたときには、みなさんお腹を抱えて笑ってくださって。人生ではじめて、笑って椅子から転げ落ちる人を見ました!なので、中国の方というと、とくに「おもしろいこと好き」という印象があります。共感したり、笑いあったりできるということは、気持ちが通じあっていることの表れですよね。これからも、お腹を抱えて笑えるようなことを、いっしょにやっていけたらいいですね。

■新刊が「平和について考えるきっかけになれれば嬉しい」

――『続 窓際のトットちゃん』で、お父様がシベリア抑留から帰って来た時のくだりは、心に沁みました。誰かを憎みながら人生を生きることのないようにするには、何が大事だとお考えですか。また、すでに悲しい過去を強いられている人たちへの言葉は?

  憎しみを抱えたまま人生を生きるのは、さぞかし辛いことだと想像します。憎しみを抱えないまでも、子どもは何か悲しいことがあると、誰かのせいにしないで「自分が悪かった」と思って、苦しむ傾向にあるようです。私が「嫌なことは忘れて、次に進みましょう」なんて言っても、説得力がないかもしれません。かける言葉が見つからないから、私はこうやって自分のことを本に書いているのかもしれません。

 子どもたちが私の本を読んで、ほんの少しでも「あ、一緒だ」と思える箇所があったら、心が軽くなるかもしれないので。私が、「きみは、本当は、いい子なんだよ」と言ってもらったように、読んだ人の心に響く言葉が、一つでもあったらいいなと思うばかりです。

 ――中国の読者に作品をどのように受け止めてほしいですか?

 私はもともと、あまり自分の本を「こう読んでほしい」と思わないほうなんですが、私が悩んだり焦ったりしながら頑張ったことに共感してくれたのであれば、とてもうれしく思います。

 中国では、『続 窓ぎわのトットちゃん』で紹介した、香蘭女学校の校歌の「咲くはわが身のつとめなり」という一節に共感してくださっている人が多いと、出版社の方から伺っています。若者がそれぞれに「自分の花を咲かせたい」と考えるのは、時代や国境を越えて、みな同じなんだと思いました。また、「自分の花」を咲かせるための努力ができるというのは、自分が置かれている世界が平和なことの証拠です。

 私としては、この本を読んで微笑んでいただければ、それだけで十分うれしいのですが、もしも平和について考えるきっかけになってくれたら、もっとうれしいと思います。

――『徹子の部屋』2022年最後の番組で、ゲストのタモリさんが語った「(日本は)新しい戦前になるじゃないですかね」という言葉は話題になりました。徹子さんは、本のあとがきに「そんなタモリさんの予想がずっと外れ続けることを祈りたい」と綴っていましたね。

 本当の平和はいつになったらやってくるのでしょうか。私も、戦争のニュースを耳にするたびに、胸を痛めています。日本でテレビ放送が始まるとき、「テレビは恒久の平和に寄与することができる」と教わりました。『徹子の部屋』でも、高齢のゲストの方たちには、戦争中の話を聞くことを強く意識していますし、「少しでも、平和について考えるきっかけになれば」という思いが、『続 窓ぎわのトットちゃん』の執筆動機の一つでした。

 どうやったら戦争を止められるか分からないので、せめて、戦争で何の罪もない子どもが犠牲になることがないようにと訴えていくために、自分にできることをしていきたいと思っています。

■「100年後も希望にあふれる未来でありますように」

中国で人気の「ファーファ」のぬいぐるみを抱く黒柳さん(写真:新華社通信)

――世界中の「100年後の子どもたちに伝えたいこと」は?

 20世紀の子どもも、21世紀の子どもも、22世紀の子どもも、きっと共通点があるはずなので、100年後に、もし『窓ぎわのトットちゃん』や『続 窓ぎわのトットちゃん』を手に取ってくれる子どもがいたとしたら、私の失敗エピソードを、笑ってもらえたらいいなと思います。私たち大人は100年なんて言わず、もっと何千年も前から、未来を担う子どもたちの幸せを願っています。100年後も、希望にあふれる未来でありますように。

――最後に、ここ北京から発したいメッセージがもしあれば、お願いします。

 私は北京に来て、なおのこと、中国が大好きだと思いました。だから、これからも仲良くするように、中国と日本と仲良くして、一人ひとりもみんな仲良くして、これからずっと楽しく、一緒に暮らしていけばいいなと思います。

 次回は、ぜひパンダに会いに来ます!再見!

(文責:王小燕 写真:王蕙林 校正:鳴海)

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