【観察眼】座礁老朽艦を地域の平和と繁栄の妨害にしてはならぬ

2024-02-02 14:48:48  CRI

 2023年以降、フィリピンが中国南沙諸島の仁愛礁に「座礁」させた老朽軍艦が、頻繁に紛争の焦点となっている。これに対する西側メディアの報道の中で、「中国は力でフィリピンの主権、管轄権を侵害し、暴力的な手段でフィリピン側の補給船に対応していた」イメージが固定化しているが、果たして実態はどうなっているのか。

 まずは彼らがいう中国の「力」について。

 西側メディアではあまり取り上げない背景の一つに、中国南沙諸島にある53の海面上に露出する島のうち、中国が実効支配しているのはわずか9島に過ぎず、フィリピンは仁愛礁を除いて、8島を実効支配しているという実態がある。

フィリピン側の座礁軍艦「シエラマドレ号」(資料写真)

 1999年5月9日、フィリピン海軍は1944年に建造された米海軍揚陸艦を改修した老朽軍艦を、「機械の故障」を理由に仁愛礁で不法に座礁させた。それから24年が過ぎた。中国は「座灘」には強く反対してきたが、フィリピンとの間には人道主義に基づく暗黙の了解があった。つまり、フィリピン側が軍艦に駐屯する軍事要員に必要な水、食品、薬品などを補給することは許可するが、中国への事前通報と中国海警船による監督を受ける必要があるという点だ。

 ここで、いくつかの事実を明確にしなければならない。第一に、最近、中国海洋警察がフィリピン側の補給を遮断する事態があったが、その理由は、2023年に入ってから、フィリピンが暗黙の共通認識を破り、中国側に通報せずに仁愛礁に乗り込み、補強・補修用の建材を輸送したことにある。

 第二に、いわゆる「中国側がフィリピン側の船に体当たりした」というのは、フィリピン船が故意に中国の法執行海警船にすり寄り、衝突してきたのが実際の姿であった。また、「中国側がフィリピン船に『危険な動作』でぶつかってきた」というのも、不法侵入を警告したにもかかわらず聞き入れなかったため、中国海警船が放水銃で駆逐しようとしたものであった。しかも、放水銃は近くの海面に向けられており、フィリピン船に直接的に向けられてはいなかったのである。

仁愛礁付近海域でパトロールする中国海警船(写真:視覚中国)

 大まかな統計によると、フィリピンは2023年に合計14回にわたって座礁軍艦への補給を行った。とりわけ下期に入ってから、フィリピン側は物資を輸送するたびに、多くの記者を同行させ、双方の船舶の写真と動画を至近距離で撮影しては、それを編集し、中国側が輸送・補給を妨害し、フィリピン側の船舶に「衝突」してきた映像を作って国際世論をあおり立てていた。さらには、中国が長距離音波装置と軍用級レーザーの照射でフィリピンの船員を攻撃したという根拠のない主張を行い、自らが「被害者」だというイメージをつくり上げた。

 中国は仁愛礁を含む南沙諸島に対して争う余地のない主権を有している。フィリピンが仁愛礁で不法に「座礁」させた軍艦は、マニラ当局が仁愛礁を永久に侵奪しようとするための道具にすぎない。いうまでもないが、中国には座礁軍艦を現場から曳航していく能力がある。しかし、隣国と仲良く付き合うことを重視する中国は、南海の平和と安定に影響を与えることを好まず、一貫して抑制的に問題の処理に当たってきた。現在、仁愛礁をめぐる争いは主権の争いではなく、実行支配権の争いであり、フィリピン側は不法に座礁させた軍艦の補強と補修を通じて、仁愛礁の長期的な実効支配を達成しようとしているのが本来の意図である。中国にとってみれば、当然これは看過できることではない。

 南海地域をめぐる最近の動向をピックアップしてみよう。

 2022年6月にマルコス大統領が就任してから、米国と2014年に結んだ「防衛協力強化協定(EDCA)」を改定し、米軍がフィリピン国内で使用できる基地を5カ所から9カ所に拡大し、2023年4月には約1万7000人が参加する過去最大規模の合同軍事演習を実施したのに続いて、6月に日米比による初の合同演習も行った。11月に岸田文雄首相がフィリピンを訪問し、総額4億円の海岸監視レーダーをフィリピン軍に供与することを決定した。これらレーダーのデータは、日本の自衛隊と米軍に同時にリアルタイムで共有される。同11月、フィリピン軍は南海の海上と空域で立て続けに米軍とオーストラリア軍とそれぞれ合同パトロールを行った。

 これら一連の動きの延長線上に、2023年にフィリピンが座礁軍艦に補給する際に、米国が軍用偵察機を出動させ、仁愛礁付近の空域で活動し、最近の数回はミサイル駆逐艦まで派遣した。さらに、フィリピン高官がメディアに明らかにしたところでは、米国は座礁軍艦の修理を支援する意向であるともいう……

 2024年は明けてまだ1カ月しか過ぎていないが、早くも一連の動きが起きている。まずは、インド製超音速巡航ミサイル地上システム「ブラモス」が間もなくフィリピンに配備されることである。続いてはマルコス大統領がベトナムを訪問し、両国政府が沿岸警備隊同士の協力強化で合意したと発表した。さらには、フィリピン軍は座礁軍艦に補給物資を空中投下したとして、国際世論を大々的にあおり立てた。そしてフィリピン側の関係者4人が中国黄岩島の礁盤に不法侵入したという動きも……

 気がついてみれば、フィリピン側のこうした「積極的」な動きにより、日米を始め、当事者ではない国々が次々とこの地域の安全保障に介入してくる事態になっている。これにより、南海問題はますます軍事化、国際化、複雑化の様相を呈し、この地域の安全保障情勢をいっそう厳しいものにしていると言える。

 南海は世界的に重要な海上貿易ルートであり、毎年約3兆ドルの物品がこの海域を通過しているとみられている。日本にとっての重要性も言うまでもない。早くも日本の有識者からは、日比の安保協力は、地域の緊張を高めてはならないという声が上がっている。そして、双方の協力は軍事に偏重したものにすべきではなく、地域の安定を損なうような、敵対的な包囲網の構築には警戒を要するという声も聞こえる。

 では、南海問題の解決には何が必要なのか。2002年、中国はフィリピンを含むASEAN諸国と共に「南海における関係各国の行動宣言」に署名した。その第2条には「領土・管轄権紛争は、直接に関係する主権国家同士が友好的な協議と交渉を通じて平和的な方法で解決をはかり、武力に訴えたり武力で威嚇したりしてはならない」と明記されている。

 フィリピンが他の国を引き込んで「小さなサークル」を作っては南海各方面の政治的な相互信頼を破壊することは、南海問題をさらに複雑化するだけであり、南海の平和と安定にとっても不利であり、ASEANの実利から乖離してしまう。

 南海問題は中国とASEAN諸国間の問題であり、いかなる域外勢力の干渉も許されない。フィリピンに本当に南海問題を適切に解決したい意図があれば、第三国を引きずり込まず、冷静かつ実務的な態度を保つ必要がある。過激な行動を取って地域の緊張を人為的に高めるのではなく、対話と協議による紛争解決に力を注ぐべきだ。

 老朽軍艦はいずれ解体の運命を免れないだろう。南海海域にとって当面の急務は、座礁軍艦を地域の平和と繁栄・発展の妨げにすべきではないということだ。何故ならば、この海域の平和と安全、航行の自由を守ることこそが各方面の共通利益だからである。(CGTN日本語部論説員)

 

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