北京
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スリランカによる国の「破産」宣言は、国際社会の注目を集めている。いまの危機的状況に陥ったのは、植民地経済の遺物である農作物栽培に頼る経済構造、性急な「100%有機農業化」計画に端を発した農業生産規模の激減、高い外債依存度と低い外貨準備高などの内因によるものである。そして、新型コロナウイルスの感染拡大で基幹産業の観光業が大きなダメージを受けたのに追い打ちをかけるように、ウクライナ紛争が引き金となったエネルギーや食糧価格の上昇、米国の利上げとドル高がもたらした償還コストの増加などの外因も重なる。
ただ、そうした中で実に不可解だったのは、スリランカの破産宣言を受け、その原因は中国の「一帯一路」構想と「債務のワナ」にあるという雑音である。日本の「産経新聞」は最近の多くの記事で、「スリランカは中国による『債務の罠(わな)』に陥った典型的な途上国」と報じ、「中国頼みで債務の罠に陥った」と繰り返し喧伝している。
しかし、スリランカの財務計画省対外援助局の発表を見てみると、同国の対外債務の残高は510億ドル。その内訳は、国際資本市場からの借入47%、アジア開発銀行13%、日本10%、中国10%、世界銀行9%、インド2%、その他9%となっている。国際資本市場こそがスリランカ最大の債権者であり、中国は日本と同程度の割合で、際立って大きいというわけではない。
7月14日、イエレン米財務長官は主要20か国(G20)の財務相・中央銀行総裁会議で途上国の債務問題に言及した際、「中国によるスリランカの債務再編に期待する」と指摘した。さらに、「中国が関与すれば双方のためになる」とし、「G20における米国の協力パートナーに対し、中国がより協力的になるよう圧力をかけることを促す」という米国の姿勢を前面に出した。さらに、その具体的なアプローチとして、2020年10月に、G20とパリクラブ(主要債権国会議)が合意した、途上国の債務救済に向けた「共通枠組」を利用すべきとし、「中国が関与を渋っていることから、支援の動きがその後は進展していない」と矛先を中国に向けている。
イエレン財務長官の発言の真意はどこにあるのか。首をかしげたくなる。実は、その言及したいわゆる「共通枠組」とは、多額の債務を抱えた途上国が新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切れるように合意した枠組みだが、対象国は「低所得国」となっている。国連の基準では、スリランカは「中低所得国」であり、最初から当該枠組みの適用条件を満たしていない。そうした事情を百も承知で、敢えてそれを話題に持ち出したのは、中国をバッシングするためのツールにしたいのではないだろうか。中国が応じた場合は、米国は「債務のワナ」で中国を引き続き攻撃することができ、拒否すれば、支援の動きが遅い責任は中国にあると非難し続けることができる。こんな都合の良い提案があるものだろうか。
スリランカ国ジャフナ(JAFFNA)大学の学者アシラン・カディガマ(Ahilan Kadirgamar)氏は国の破産宣言後にネパールメディアのインタビューに応じ、「本当に懸念すべきは、いわゆる中国の『債務のワナ』ではなく、米国が主導するグローバル資本市場の外債である」と明言している。そして、「スリランカの新自由主義化経済と世界の金融資本とのさらなる深い融合」こそが、自国をより深い危機に追い込んだ原因だと切り込んでいる。
イエレン財務長官は折にふれ、中国は対スリランカ債務の内訳を公表すべきだと主張しているが、中国以上に明細を公表しなければならないのは、利益を追い求める西側の商業債権者や多国間金融機関ではないだろうか。彼らが「ハゲタカファンド」に債権を売りさばいて、スリランカの富を搾取していないかを公表してほしい。
一方、グローバル・ガバナンスの視点から見れば、スリランカの「国家破産」の本質は発展の不均衡とガバナンスの問題でもある。債権国の一つである中国も他の債権者と同じく被害者である。中国が「債務のワナ」をしかけたという非難は濡れ衣であり、ましてや「一帯一路」構想への攻撃も実態とかけ離れている。発展途上国にとって、今回のスリランカの危機からくみ取ることのできる教訓というのは、インフラを強化し、内生的発展に向けた環境整備から始めることこそが、問題解決の真の鍵であるということである。
中国は、スリランカがいま直面している困難と挑戦に終始関心を寄せており、できる限りの援助を提供している。中国外交部の発表によると、中国が同国に提供した第2陣の緊急人道食糧支援はすでに7月14日に順調に引き渡しを終えた。中国は多くのルートで、スリランカ各界の人々の暮らしの改善に役立てる援助を提供し続けている。また、関係国や国際金融機関とともに、当面の困難に対応し、債務負担を緩和させ、持続可能な発展を実現するために引き続き積極的な役割を果たしていくことも表明している。
危機の真っ最中にあるスリランカにとってみれば、いま最も必要なのは、国際社会が力を合わせて、実質効果のある債務再建に向けた支援であり、地政学のコマとして利用されることはもう御免である。(CRI日本語部論説員)