北京
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2019年9月10日・17日放送の「CRIインタビュー」のゲストは、日本人でありながら中国の資本市場を内側から見つめ続けてきた徳地立人(とくち たつひと)さんでした。
徳地さんは、父・末夫さんの仕事(元「北京放送(現在のCRI)」日本人専門家)の関係で、少年時代から青年時代にかけて北京で過ごしました。中国に来た1964年は、折しも新中国成立15周年の年でした。徳地さんは編入先の北京の小学校での勉強の様子などについて、「チビちゃん」のあだ名で知られた北京放送の陳真アナウンサー(1932~2005)のインタビューを受けたそうです。今回は実に「55年ぶりの北京放送への出演」ということになりました。
1977年、25歳の誕生日に徳地さんは日本に本帰国。その後、日本の大和証券に入社。さらに、スタンフォード大学への留学やアメリカでの勤務を経て、世界を舞台に活躍してきました。
一方、中国では1978年末から「改革開放」が始まり、金融業の面では1990年12月19日に上海証券取引所が、1991年7月3日に深セン証券取引所がそれぞれ正式に開業しました。
こうした時代の変化を背景に、徳地さんは2002年に仕事のパートナーでもあった中国の友人に誘われ、中国政府系大手コングロマリットである中国中信集団公司(CITIC Group)傘下の中信証券に副社長として転職。中国の証券会社における外国籍経営陣メンバーの第一号となりました。その後、2015年の定年まで続いた13年間を中信証券で過ごした徳地さんは、大型国有企業の株式化、5大銀行の新規株式上場(IPO)、中国企業の国内外でのM&Aなど、数多くの大型案件を手掛けてきました。なお、入社時は創業から7年未満の中堅企業であった中信証券は、この間に大きく成長し、今や世界に羽ばたく、中国を代表する金融会社となっています。
中国の証券業の成長を内側から支える“担い手”でもあった徳地さんに、新中国70年の歩みと絡めて、金融市場の動きや、中国経済のいま、新時代の中日関係などをめぐり、お話を伺いました。
◆中国金融業の対外開放は「良い方向」
ーー1990年に深センと上海で相次いで証券取引所が開所し、中国で株式市場の取引が始まりました。その動きを耳にした時のお気持ちは?
私が大和証券で最初にやった仕事は、中国企業の日本での債権発行でした。CITICが100億円の私募債を日本で発行した際に、大和が3社ある幹事の一社でした。株は、証券ビジネスの中で一番コアなものです。ちゃんとした良い会社があって、将来性があるだけでなく、財務的にも安定しているということを、投資家に分かるように開示する。中国は最初のうちはこの点に欠けていましたが、1980年代になると実験的に行なわれるようになり、90年代に入って初めて深センと上海に証券取引所ができ、そこからスタートしました。その発展の過程を知っているだけでなく、ある程度参加してきた自分としては、「これから中国は大きく成長する」という興奮もあれば、「色々これからも大変だな」と思う部分もあり、複雑な気持ちでした。
ーー中国金融業の対外開放の現状をどう評価しますか。
全体的に中国の金融業が、特にここ1、2年になって開かれてきたことは歓迎すべきことです。ただ、私が中信証券に入った頃は、もっと早く金融業がオープンになると予想していました。そういう意味で、もう少しスピードを速くしても良いのかなとも感じていますが、方向としては良い方向だと思います。
◆中国経済、長期的な成長に期待
ーー目下の中国経済を取り巻く環境についてどうご覧になりますか。
短期的に見ると、国内では企業の債務過剰の問題、外部では中米貿易摩擦の激化を背景に世界経済の不透明性が高まっており、あまり楽観視できる状況ではありません。ただし、長期的に見れば、14億の民がいること、40%もの高い貯蓄率があることが中国の強みです。これほど高い貯蓄率は海外ではまれです。それには効率的に投資が行われていないという側面もありますが、基本的には中国国内で今後消費を増やすとか、建設していくことができるだけのリザーブ(貯え)です。そのため、成長率は下がるとしても、うまく運営さえすれば、中国経済は今後も十分に成長していくことができると思います。
ーー経済成長にとっての明るい材料は?
やはり地球規模で見ますと、人口増加に伴い地球が小さくなっています。そうした中、人類が連携して克服しなければならない問題がたくさんあります。また、今は第四次情報革命の真っ只中です。AI、IoT、量子コンピューターなどが人間の社会、ものの考え方、経済や産業のあり方を大きく変えていこうとしています。困難と夢が複雑に混ざり合っているのが、現在の時代だと思います。ですから、政治家や経営者など責任ある立場にある人間は、そういう共通の認識と将来に対して明確なビジョンを持って、矛盾を爆発させるのではなく、互いに交流することでそれを一緒に克服し、若い人たちをワクワクさせるような未来を描く必要があると思います。
◆国民の幸せにつながる「二つの百年」の実現を
ーー中国は今、中華民族の復興という「中国の夢」を掲げており、それを具現化するための「奮闘目標」として、具体的には、「二つの百年」(※)を掲げています。中国の国づくりの目標と、それに向けた努力は、徳地さんの目にはどう映っていますか。
※「二つの百年」: 中国共産党成立100年に当たる2021年に小康社会の建設を達成し、国内総生産(GDP)と都市・農村部住民の所得を2010年比で倍増させる目標と、その次に中華人民共和国が成立100年を迎える2049年に富強・民主・文明・調和を兼ね備えた社会主義現代国家の建設を達成し、中等先進国の水準に達するという目標のこと。
1975年だったと思いますが、周恩来総理が亡くなる一年ぐらい前に、国を代表して「21世紀になるまでに中国は“四つの現代化”を実現する」と言った時、私はたいへん興奮して聞いていたのを、今でも覚えています。その数年後に改革開放政策がとられ、中国経済が成長し、2002年にWTO(世界貿易機関)に入り、継続的に急成長が実現できました。
「二つの百年」という目標は過去の成長の上に設定された 新しい目標だと見ています。私は それは大変良いことだと思います。同時に、ここで基礎に戻ることが重要だと思います。
「経済成長というのは何のためにするのか」ということで、それは「国民の幸せな生活を長期的に継続させる」ということなので、「二つの百年」の夢というものがその線に沿って実現することを期待しています。
◆中日は「大規模に学び合う」新時代に
ーー中国と日本の両方で暮らし、外国人でありながら中国を内側から観察・経験してきた徳地さんは、中国と日本のあるべき姿をどう描きますか。
歴史を振り返ることが重要です。明治維新までは日本は中国から政治、経済、文化など、ありとあらゆることを学んできました。そうして、2000年近い歴史の中で日本は特有の文化を育んできたと思います。ただ、明治維新以降は逆転して、中国から日本に留学生がどんどん来て、書物も日本から中国に流れていきました。中国人が近代化の秘訣を日本から学ぼうというこの流れは、残念なことに、日本の軍国主義の仕掛けた侵略戦争で閉ざされてしまいます。
ところが、1972年の国交回復により、その流れが戻り、加速しました。今、中国は改革開放によって世界第二の経済大国になり、経済規模はまだ伸び続けています。私は「これからは、日中双方が大規模に学び合う時代に入っていく」と数年前から色々な所で言っています。今はそういう時代に入ってきていると思います。
その中で特に注目している分野は、社会的な面では日本の経験、たとえば少子高齢化――日本はすでに超々高齢化に入っています――また、日本が都市化で苦しんできたことなどです。色々なことについて、中国は日本に経験、教訓、対応策などを学ぶことができると思います。
それから、産業的な面では、製造業で日中は補完的なところが多くあります。モノづくりにおいて、中国は設計、アイディア、組立て、販売がすごく強いですが、日本は素材、部品、整備のところ、表に見えてこないところで世界トップです。それが合わさることによって、一つの産業の流れになっています。
ーー最近、両国の指導者が会談の中で「新時代にふさわしい両国関係の構築」について言及しています。このキーワードをどう理解していますか。
すごく重要な指摘だと思うのですが、「新時代とは何なのか」を認識することが必要だと思います。
第一に、新時代が――大きな産業革命が起きていることを認識することが重要で、この新しい技術によって、人類、社会、地球が変わっていきます。そして その規模は一国ではなく、地球規模以上の視野で考えなければいけない時代になっています。第二に、グローバル化に対して否定的な意見がベースになって、世界的に一国主義やポピュリズムなどが台頭し続けています。第三に、全世界的なところで、地球温暖化に代表される環境破壊の問題です。我々は地球でどう生活していくのかという問題にさらされています。
少なくともこの三つの要素があり、今の時代は期待と困難が複雑に織り交ざっています。だからこそ、日中両国は手を取り合って、意見を率直に話し合って、問題を一緒に解決していく。そういう姿勢が非常に重要だと思います。
◆ ◆
ーー最後に、70周年を迎える新中国にメッセージをお願いします。
中華人民共和国は成立から70周年の間に社会と経済が大きく飛躍・成長して、今日になりました。これはひとえに 非常に勤労な中国人民と改革開放政策の賜物だと思っています。これから中国がますます大きく成長して、世界的にも影響力のある国になりますが、引き続き世界平和と国民の幸せのために大きく寄与していくことを心から願っています。
(聞き手&文責:王小燕、梅田謙 写真&映像:劉叡)
※さらに具体的な内容は2019年9月10日&17日放送の「CRIインタビュー」をお聞きください※
【前編】中国の証券会社と共に歩んで~徳地立人さんに聞く(上)
【後編】中日は「大規模に学び合う時代」に~経済と金融のプロ・徳地立人さんに聞く(下)