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「乗り込んできた老人」

2012-03-15 11:20:32     cri    

 と、四日目の朝、老人は朝早くこっそりと李公のもとに来た。李公はいったい何事かと首を傾げたが、老人はいつもとは違った表情でいう。

 「李公どの。この数日、あんたがとてもよいお人だとわかりました。今からほんとのことを申そう。わしは幼いときから武芸を学び。二十歳前から用心棒を勤めてきましてな。これまで多くの金目の品物や金銀を無事に目的地に送ったものです。それていくらか名を知られており、人はわしのことを"負け知らずの金"と呼んでおる」

 これに目を丸くしていた李公は聞く。

 「それではご老人は?」

 「そう。で、用心棒をしてかなりの貯えができたあと、年もとったので今から5年前にこの稼業をやめましてな。いまは妻と共にあるところで暮らしており、暇な日々を過ごしておりますワイ。実は、あんたが今度の船のたびに出かけるあの日、わしが港でぶらぶらしていると、かつで痛めつけた盗賊を見かけたので、どうせ暇なのであとをつけてみました。そしてその盗賊は一味の頭が船の船頭になり済まし、悪事を働いているようでした。もうおわかりかな?」

 これに李公ははっとなった。

 「なんと?ではその盗賊の船とは?この・・・」

 「いかにも、この船はやつのもの。この盗賊の船をあんたは雇ったということになるのですな」

 「それはほんとですか?」

 「わしはあんたが騙されてひどい目にあうのを見ておられず、あの日口実を設けてこの船に乗り込ませてもらいました」

 「では、どうしたらよいので」

 「まあ、慌てることはない。いいですか?あの盗賊は"毒泥鰌"というあだ名をもち、この船に6人の手下を船乗りとして従えております。で、あの"毒泥鰌"の縄張りはたしか安慶だいうとこと。そしてその安慶にこの船は夜半に到着しますぞ」

 「では、どうすればよい¥のですか?」

 「ご安心なさい。あんな奴ども、わしにとってはこそ泥ですわい。で、わしのにらんだところでは今夜あたり、奴どもがあんたと供の方を襲ってくるはず」

 「私たちを今夜?」

 「そうじゃ。夜にある港につくはずじゃが、やつらは言い訳をしてそこを通り過ぎるでしょうな。あんたは、そのときかの船頭にどうしてこの町を通り過ぎるのかきいてみなされや」

 「ええ?・・わかりました」

 「で、今日は一日知らん顔で過ごし、夜は、あんたがわしの床に横になり、わしがあんたの代わりにあんたの床に潜りましょう」

 「大丈夫でしょうか?」

 「心配されるな。しかし、このことはあんたの二人の供にもひそかに伝えておきなされよ。あの二人はいくらか武芸の覚えがあるようだが、盗賊どもの相手にはなるまい。ですからあとで今から私のいうとおりにするよう命じなされや」

 「わ、わかりました。どうするかは私からひそかに共に伝えておき、ご老人の言うとおりにさせましょう」

 「そうなされ」と老人は李公の二人の供がどうしたらよいのかを細かく教えた。

 そのあと李公は二人の供を呼んで老人の言うとおりにするよう命じた。二人の供、特に李富はこれを聞いてかなり驚き、信じられない顔をしていたが、かの"負け知らずの金"のうわさは知っていたらしく、少し考えたあとすぐに老人の言うとおりにすると答えた。

 さて、その日の夕餉もおわり、李公と話していた老人はそろそろ休みにいくといってその場を離れた。その夜は月が出ていた。まもなく船はあるにぎやかな町に近づいたが、この船は港に近づかない。これに李公は老人に言われたとおり、どうしてこの町を通り過ぎるのと船頭に聞いた。すると船頭は「ああ。お客人、今夜は天気がいいのでこのまま船を進ませるのがわしらの仕事なんで」と答える。これに身震いした李公は自分の船倉に帰り、身を硬くしていると、遅くなってかの老人がひそかに入ってきて李公の床に潜り、李公は出て行って老人の船倉に身を隠した。もちろん、李公の二人の供はその夜は酒を飲み、酔っ払って寝たふりをしていた。

 やがて夜半になったが、李公は恐ろしくて寝ることができず、護身用の短剣をしっかり握って震えていた。

 さて、どのぐらいたっただろう。かの盗賊のかしらである"毒泥鰌"が手下の船乗りとひそひそ話している。

 「みんな、用意はできたか」

 「へい、お頭。用意はできております」

 「どうせ相手は三人だ。いや、変な爺が舞い込んできたので四人だ。どうせ老いぼれは何もできはしないのでほっておけばいい。で、あの二人の供はどうしたことか、今夜は酒に酔っ払って寝てしまったので、ことは省けるというもの。ということはこれから俺たちはかの金持ちの若造の首をもらいにいけばいいんだ」

 「お頭、そういうことでござんすね。ではさっそくやりますか」

 「うん。どうせ何もできない若造の首を切ることだけ・・わしが出る幕はないな」

 「そうですね、ではおいらが若造の首を切りますか」

 「おう。張五かい。ここはお前に任すか。首はきれいに切れよ」

 「わかってますよ」

 ということになり、手下の一人張五が大きな刀を手に李公の船倉に忍び込み、枕元に来ると刀を振りかざし、寝ているものの首めがけて思い切り振り下ろした。すると「ガチン!」という音がして刀が飛んだかと思うと、布団がのけられ、横になっていたはずの李公が飛び上がりびっくりしている張五のあごを蹴り上げた。

 一方、外で張五の悲鳴とひっくり返る物音を耳にした"毒泥鰌"とほかの手下たち、何事だと明かりを手に船倉に入ったところ、床の上にはかの老人が腕を組んで立っており、近くであごを砕かれ血を流している張五が倒れていた。これに"毒泥鰌"はびっくり。

 「この老いぼれめ、殺してくれる」と数人で襲い掛かったが、どうしたことか、盗賊たちはすべて打ちのめされ、顔や体から血を流し、いずれも地べたにへたばってしまった。

 これに老人は笑い出し、船倉の中の明かりをつけると、右腕を折られて苦しんでいる"毒泥鰌"に近寄った。

 「おい。"毒泥鰌"とやら、わしが誰か知っているか?」

 これに"毒泥鰌"は苦しみながら答える。

 「これは、どなた様でしょうか?どうか俺たちの命だけは取らないでくださいな」

 「ふふふ!おとなしくしていれば命だけは助けてやるわい」

 「ありがとうございます。あなた様はいったいどなたで?」

 「教えてやろう。お前を昔痛めつけた男で、以前用心棒で名を売った"負けなしの金"というものを知ってるかい?」

 これを耳にした"毒泥鰌"は、へとへとと頭をたれた。この様子を外で聞いていた李公は実は、盗賊どもやられたのを知ったので、早速供を連れて、この船倉に入り、ひざまずいて老人に礼を言う。

 これに老人は、「いやいやそれには及ばぬ」といい、盗賊たちをたたき起こし、おとなしく船のかじを取らせたので、船は翌朝無事李公の向かう港に着いた。

 そこで盗賊たちは李公たちの荷物をおろすと、老人にぺこぺこお辞儀したあと、船を漕いでどこかいってしまったわい。もちろん李公は老人にお礼をしようと思ったが、気がつくと老人はもういなかったとさ。

 そろそろ時間のようです。では来週お会いいたしましょう。


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