お礼にもらった丸薬
最後は「お礼にもらった丸薬」です。
張武は元は盧江道の軍隊の副将で、熱心に旅の人を助けていた。ある日の夜、一人の老いた旅僧が兵営の近くを通りかかったのを見ていう。
「これは和尚さま。宿はここからかなり離れたところにあり、そこまでつくには明日になりますぞ。和尚さまはもうお年なので大変だから、今夜は兵営に泊まりなされ」
これに旅僧は喜び、さっそく兵営のあるところに泊めてもらうことにした。これを耳にした軍隊の主将は不機嫌になった。
「なんということだ!今、南北の間で戦が始まっていると言うときに素性のはっきりしない和尚を兵営に泊めるとは!」
これを耳にしたのか旅僧は兵営を離れようとした。これを張武が止めた。
「和尚さま、もう遅いので私の部屋で寝なさい。気にすることはありません」
こういって張武は自分の床に旅僧を寝かせ、自分は隣の部屋の地べたに布団を敷いて寝た。その上心配して、夜半に何度も起きて旅僧の様子を見にきたりした。これに旅僧はかなり感動し、翌朝張武にしみじみ言った。
「あなたはまだ若いのにそのような行いをされるとはたいしたものですな」
「いえいえ、たいしたことはありませんよ。ただ旅に出ると誰でも困ったことにぶつかると思って、それを何とかしようと私がやただけのこと」
「うん、うん。お偉い方じゃ。どうです。拙僧はお礼をしましょう」
「とんでもない。お礼なんて私は考えていませんよ」
「そうでしょうな。でも、是非受け取っていただきたい。これは拙僧の願いじゃ。いいですな」
「お礼など、本当に結構ですよ」
「いや、いや」と旅僧は懐にしまってあった小さな包みを取り出した。
「これは十粒の丸薬じゃ。これを毎年正月はじめに一粒だけ呑みなさい」
「え?毎年の正月はじめに一粒だけ」
「そうじゃ。一粒だけですぞ。さ、拙僧はもう行かなくてはなりません」
「あ、和尚さま。もういかれるのですか?」
「そうそう。拙僧は実は忙しいのですわい。では拙僧の言うとおりにお願いしますよ」
「え?わかりました」
「そうすれば、あんたは長生きできるはず」
「え?長生き?」
「もちろん。どうもお世話になりました」
旅僧はこういって兵営の表へ出た。これを送りにいこうと張武がついていったところ、なんと旅僧の姿はなかった。
首をかしげた張武はしかたなく、旅僧の言うとおりにした。その後、どうしたことが張武は百歳あまり生きた。それに体は丈夫で、顔色も若々しく、かなりの年まで武術を教えていたと言う。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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