林檎を食べた後
光州に蒋舜卿という田畑を調べる役人がいた。ある日、蒋舜卿が仕事に出かけ、林檎畑を通りかかり、歳がいった一人のじいさんが、林檎をもぎ取っているところだったので、のどが渇いていた蒋舜卿は、林檎を二つもらって歩きながらそれを食べた。そしてこの日は忙しかったので家に戻って夕餉を食べるまでは何も食べなかったが、どうもおかしい。というのは、胃がもたれ食欲をなくし、なんとその日の夕餉だけでなく、次と次の次の日も何も食べたくなくなり、頭がふらつく。
これは大変だと蒋舜卿は、三日目に町の医者のところに行ったが、どうにもならない。そこで蒋舜卿は別の医者たちにみてもらったところ、誰も治せない。慌てた蒋舜卿は、他の町にいってみてもらったがだめだった。こうして蒋舜卿が困り果てていたときに、同僚の一人が寿春というところにかなりの歳の医者がいて、その医術は高く、どんな病も治せるというので、さっそく、籠に乗って寿春の町に向かったが、あまりにも遠いので、仕方なく途中のある宿に泊まることになった。
さて、その宿にはある老人も泊まっいて、蒋舜卿がかなり弱っているのを見ていう。
「おお、そこのお人、どうも具合が悪そうじゃのう。一体どうなされた?」
「いや、ご老人、実は数日前に、仕事に出かけ途中であまりにものどが渇いていたので、そこの林檎畑で二つの林檎をもらいまして食べましたところ、その日から胃がもたれ始め、何も食べる気がせず、物がのどを通りません。そしてこれまで多くの医者に見てもらいましたが、誰一人治せる医者はいなかったのです。そこで寿春に名医がいると聞き、そこへ行く途中でござるよ」
「なるほど。どうかな。わしは今は閑でのう。わしが見てやろうか?」
「ええ?ご老人が?」
「ああ。さっきからあんたの顔色を見ていたが、もしかしたらわしが治せるかも知れん。ま、悪いようにはせんから、だまされたつもりでわしに脈を取らせないさい」
これを聞いた蒋舜卿は、どうせ明日早く寿春の医者のところへ行くので、その前にこの老人にみてもらい、治らなければもともとだ!とおもい、老人に脈を取らせた。で、老人は蒋舜卿の脈を取って目をつぶっていたが、やがてにゃっと笑い、持参の汚い袋から一服の薬を取り出し蒋舜卿に飲むよう進めた。これに蒋舜卿はいくらかためらったが、毒は入っていないだろうと思い薬を飲んだ。しばらくして蒋舜卿は吐き気を感じ、なんとかの噛み砕いて呑んでしまったはずの二つの林檎が、丸ごとになって吐き出されたのだ。
「ほれ!これで大丈夫じゃ」と老人はその林檎を手にしてみたが、なんと新鮮そのものだった。そして老人はその二つの林檎をかの汚い袋に入れ、わしは休むといって自分の部屋にかえっていったわい。
こちら蒋舜卿はこのときから胃のもたれがなくなり、急に空腹を覚え、早速部屋に帰ってものをガツガツ食べたワイ。翌日、蒋舜卿はお礼を言いに老人を訪ねたところ、部屋は空っぽ。宿の主は老人は明け方に宿をでたといい、どこへ行ったかはジェンジェンわからないと言う。
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