中国の内蒙古自治区に住む少数民族・蒙古族の楽器には、馬の頭の形をした彫刻がついた琴があります。馬頭琴(モンゴル語では「モリンホール」)です。棹(さお)と共鳴箱は木製、弦と弓は馬の尾の毛で作られています。
馬頭琴の由来についていろいろな伝説がありますが、最も有名なものは、日本の小学校の教科書にも入っている「スーホの白い馬」というお話です。以下では、物語の大体の筋をご紹介します。
13世紀ごろ、中国内蒙古の草原には、スーホという青年がいました。彼は、一匹の白い子馬を飼っていました。スーホが歌を歌うと、子馬は歌に合わせて高い声でいななきます。スーホと馬はともに仲良く暮らしていました。ある日、スーホは、その馬を競馬に参加させ、見事優勝しました。しかし、競馬で負けた貴族の反感を買い、馬が殺されてしまいました。
悲しみに暮れていたスーホはある日、夢の中で白い馬と会いました。馬は、「私の骨・皮・尾の毛をとって琴を作りなさい。そうすれば、私たちは、いつでも会えるから」といいました。そこでスーホは、白い馬から言われたように琴を作り、それを弾くことで白い馬のいななきや草原を駆ける様子を懐かしんだということです。
これが、馬頭琴の始まりと言われています。
馬頭琴を作るには、材料選びから彫刻、磨き上げまで何十種類の工程が必要だそうです。塗装だけでも、ひと月かかります。また、馬頭琴の演奏法にも、特別なところがあるようです。
「馬頭琴を弾くときは、ほかの弦楽器と違って、弦を押さえるのではなく、こするのです。これで非常にやわらかくて奥行きのある響きが出てくるのです。これは、草原で演奏するのにとても適しています」(包さん・馬頭琴職人)
内蒙古自治区では、馬頭琴の弾き方が代々伝えられています。馬頭琴演奏家のチポリコさんは、小さいころから馬頭琴を学び始め、8歳くらいで大人の演奏家たちと合奏するようになりました。そのころ、馬頭琴が楽器の中で最高のものだと思っていました。
しかし、16歳のとき、北京の中央音楽学院に入ってバイオリンに触れ、いままで馬頭琴で出せなかった美しい音色に衝撃を受けました。
それで、自分のふるさとの楽器である馬頭琴が、バイオリンに負けないようにと思って、さまざまな改良を行っています。
「弦の材料を馬の尾の毛からナイロンに変えたり、共鳴箱を覆うものの材料に動物の皮を使わず、青桐という木の樹皮を使用したりすると、以前より響きが出て、音域も広くなりました」(チリポコさん)
蒙古族の音楽は、馬頭琴なしには成り立たないという言い方があります。まさに、蒙古族は馬頭琴を奏でることによって、草原・青空・羊の群れなど自然のすばらしさ、そして自分たちの日々の暮らしを語りついできたといえるでしょう。(鵬)
| ||||
© China Radio International.CRI. All Rights Reserved. 16A Shijingshan Road, Beijing, China. 100040 |