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今に伝えられる古楽器

2009-07-02 14:18:11     cri    

   

 中国西北部、新疆ウイグル自治区のカナス湖のほとりに神秘的な人々、トワ(図瓦)人が暮らしています。トワ人は蒙古族の支族の1つで、人口2000人余り、代々牧畜業や狩猟を営んでおり、森や山奥に住み、伝統的な生活様式を保ってきました。現在、トワ人は主に新疆ウイグル自治区北部の布尓津県カナス村や禾木村などに居住しています。

 トワ人は、古代の蒙古族の英雄ジンギスカンが西へ遠征するとき、その土地に残った兵士の子孫とも、500年前、シベリアから移ってきていて、今のロシアのトワ共和国のトワ人と民族的には同一だとも言われています。

 現在、このトワ部族にまるで化石のような、伝統的な民族楽器の「楚吾爾」が伝えられています。「楚吾爾」は古代の笛である胡笳の一種だそうです。

 新疆のアルタイ山脈のふもとに広がる草原では、毎年の5月になると、「扎拉特」という丈が長く、茎の中が空洞になっている草をよく見かけます。放牧民たちはその草を刈り、茎の中にある綿状のものを取り除いてから、茎の上に穴を3つ空けます。これで「楚吾爾」のでき上がりです。

 専門家が考証したところ、「楚吾爾」は中国の古代に胡笳と呼ばれる楽器の一種で、すでに600年以上の歴史を持ちます。

 「楚吾爾」にはこんな言い伝えが残されています。ある日、草原で、ある蒙古族が放牧をしているとき、風が吹くたびに心地よい音が聞こえてきました。耳をすませながら探してみると、その音が風で揺れている草が発していることがわかりました。そこでこの草であれこれ試してみました。草の上に、3個から10個まで穴を開けて吹いたところ、穴を3つにした場合、低音から高音まで5から6もの高さの違う音を同時に出すことでき、しかもその音色がとても魅力的なものでした。こうして、今のような「楚吾爾」ができたということです

 「楚吾爾」は中が空洞の管のような楽器で、太さは親指ほど、長さは約66センチ、表面に等間隔に並んだ3つの穴があります。

「楚吾爾」は宇宙の音

 他の楽器と比べると、「楚吾爾」の演奏方法は独特です。「楚吾爾」の上端を前歯の歯ぐきに当てて、舌先や歯、唇の動きによって旋律を奏でます。音色は豪快さがある反面、低く、どこか哀愁を帯びています。トワ人に言わせると、「楚吾爾」を吹くのは他人に聞かせるためにするのではなく、自分が大自然と交流するための手段の一つだということです。

 トワ人の泰万さんの話によると、以前は放牧するとき、よく「楚吾爾」を吹いたそうです。その滑らかな音色に、草をはんでいる羊や牛だけでなく、近くを通りかかった野生動物も、立ち止まってじっとしていたのだとか。

 その曲はほとんど叙情的で、もの悲しさがあります。ですが、楽しい祝日や結婚式などでも「楚吾爾」の曲は演奏されます。さらに、「楚吾爾」を吹くことで、生活の中で困難にぶつかった人や、永遠の別れを惜しむ人の心を慰めることもあります。「楚吾爾」の曲には、風の音、鳥のさえずり、羊や牛の鳴き声といった大自然の音や声が1つになっているのです。

 泰万さんは「『楚吾爾』の音色は大自然と結びついていて、カナス湖の波の音や森でさえずる鳥の声、さらに宇宙の音も聞こえてきます」と話していました。

「楚吾爾」の名人―葉爾徳西

 しかし、数百年にわたり受け継がれてきたこの「楚吾爾」が、失われてしまいそうになったことがありました。観光業の発展に伴い、外の世界と触れる機会が増えたこともあり、「楚吾爾」を吹ける若者がいなくなってしまったのです。亡くなった葉爾徳西さんというお年寄りは、トワ人の中でも「楚吾爾」の名人と言われていて、カナス湖を訪れた人々も葉爾徳西さんの家を訪ねては、「楚吾爾」の曲を楽しんでいました。しかし、葉爾徳西さんの3人の息子は誰一人としてこの「楚吾爾」が好きな人はいませんでした。これに葉爾徳西さんは悩んでいました。長男はトワ人の天職でもある牧畜業を営んでいます。三男はまだ若く、生きていくことの苦しさも知らず、毎日、馬に乗って遊んでばかりいました。そこで次男の蒙克さんが「楚吾爾」を受け継ぐことになりました。蒙克さんは当時を振り返ると、「父はトワ人の楽器ともいうべき『楚吾爾』の名人でした。ここを訪れるお客さんはみな「楚吾爾」の演奏を聴くのが好きで、その曲に魅了されていました。私自身は、初めは習いたくなかったのですが、3人の兄弟のうち誰かは習わなければならないので、私が父について習うことになりました。今は、父に非常に感謝しています」と話してくれました。

 蒙克さんは「楚吾爾」を習い始めて10年になります。今、カナス湖のほとりを訪れれば、蒙克さんの演奏に耳を傾けることができます。

 取材を終えてここを去るとき、ちょうど夕暮れで、トワ人の木造の家屋の上に日が沈み、山の奥から美しい「楚吾爾」の音が聞こえてきました。その音色は奥深く、すべてをやさしく包みこむような夕日と共に、心の中にすっと染みこんでいくようでした。

 今、この村では蒙克さんだけでなく、多くの若者が「楚吾爾」を吹くようになったということです。(トウエンカ)

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