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 北京で高エネルギーの世界をのぞく

2015-02-02 19:12:34     cri    

 「CRI中国人・外国人記者 科学院を取材」活動の一環として先日、中国科学院高エネルギー物理研究所の見学、取材が実施された。今回は、中国人記者20余名と英語部、タミル(インド)語部、ベトナム語部、韓国語部、モンゴル語部、そして日本語部の私を含め6人の外国人記者が参加した。

 知らない事ほど興味が湧き何でも知りたい私だが、取材先として「高エネルギー物理学研究所」の名前を聞いて、先ず頭に浮かんだのは「????」。何もイメージできない。「予習無くして授業は楽しめず、復習なくして上達はあり得ない。」これは、学生時代の座右の銘だが、仕事においては「準備(下調べ)無くして成功はなく、反省なくして成長はあり得ない」と思っている。そこで、一緒に日本語部から取材に行く王小燕記者の助けを借りてにわか勉強をしてみた。

 先ず、高エネルギー物理学とは?

 加速器で作られる高エネルギーを持った基本粒子の衝突反応を詳しく調べ、素粒子と呼ばれる究極の物質の構造や、その相互作用などについて研究するもの、とある。また、高エネルギー物理学は素粒子物理学と言い換えられる場合もあるようだ。物質の最小単位である素粒子の性質や反応を実験、理論的に研究し自然界の基本原理を探求するもの。

 キーワードは「加速器」「高エネルギー」「素粒子」だと言う所まで、なんとなく解ってきた。高エネルギーであることから、原子力、核融合に発展し、素粒子と言う究極の物質を研究することで宇宙の神秘に迫ることができ宇宙開発に応用できること、身近な所では

 がん治療などの医療分野にも応用されている。「加速器」はこの分野の研究において重要な道具であるようだ。また、高エネルギー物理学の研究は、巨額の資金と多くの人材を必要とする大規模な科学技術の集大成でもあることから、巨大科学=ビックサイエンスとも呼ばれていて、各国間の国際協力が不可欠となっているそうだ。確かに、以前は宇宙開発と言えば国家の威信をかけ最先端ぶりを競うものだったが、現在では「国際宇宙ステーション」の名前から宇宙開発=国際協力の舞台であることが解る。

 調べれば調べるほど、理解できないことが増えてくるが、時間切れ。取材に出発。

 我々のリーダーが「こんなにスゴイ施設が、こんなに近くにあるのに初めて来た」と挨拶したように、CRIから中国科学院高エネルギー物理研究所までは、車で10分ほど。まさにお隣さん。敷地面積が30ヘクタールと言うから、研究所と言うより街のような感じ。敷地内に幾つもの建物や実験用の施設が立ち並ぶ。その中の一角にあるメイン棟に案内された。立派な建物であるが、研究所だけあって静かである。棟の入り口の電光掲示板に我々の取材スケジュールが表示され、歓迎されていることを実感する。入口ロビーには鄧小平や周恩来の言葉もあり、威厳を感じる。

 案内された会議室で、先ず高エネルギー物理研究所の紹介映像をみる。前身は1950年代の原子力物理研究所にまで遡ることができる歴史ある研究所であること、世界の中で全てが最先端ではないが、加速器の技術においては優位であることなど、全くこの分野に疎い私にとっては、何を聞いても「スゴイなぁ」と思うばかり。後で日本の高エネルギー物理学研究の開始時期を調べたが同じく1950年代であったので、スタートラインはほぼ同じようだ。歓迎の挨拶に続いていよいよ研究所の専門家からレクチャーがある。理解できるだろうか…。

  

 レクチャーの大きなテーマは、加速器、中性子(ニュートロン)、広東省東莞分院での核破砕中性子源(陽子ビームを原子核標的に導き、標的核を破砕させることによって中性子を発生させる中性子源)プロジェクトについての3つ。小燕が同時通訳してくれる。私専用の通訳だ。なんて、贅沢な!通訳には問題ないのだが、私の物理学への知識が未熟で、どの話を聞いても、「スゴイ!」「そうだったのか!」と内容の本質の理解よりも只、感心するばかり。それでも、1時間近くに渡る専門家のレクチャーで理解したこともある。

 この分野の評価は、加速器の性能で決まる。加速器がよければ、実験の質も高まる。その加速器は粒子を加速させる距離が長ければ長いほどよいということで、研究所は広い敷地が必要になる。世界最大の加速器は、スイス・ジュネーブ郊外にフランスとの国境をまたいで設置されている、周囲27キロ(山手線は全周34.5キロ)という巨大なもの。北京にあるものは、240メートルということで、世界のトップとはかなり開きがある。ただ、特定のエネルギー区間や周波数スペクトルでの測定は世界で最も安定しているという進んだ部分もある。現代はいろんなものがコンパクトになっているのに目には見えないような小さなものの実験に広い敷地が必要と言うのは意外だった。

 高エネルギー物理学の我々の生活への応用として、ガンの治療くらいのイメージはあったのだが、SARSの解析などにも活躍したと聞き改めて応用範囲の広さを学んだ。また、巨大科学であることから研究所間での連携、情報の共有が重要になってくるのだが、この副産物として、中国国内でのインターネットの発達に繋がっているようだ。

 取材に出かける前に、質問事項を考えていた。「この研究は、我々の生活のどんなところに応用されるのか?どんな、メリットがあるのか?」他の記者からの質問で、私の質問の答えが出てしまった。ここでの研究は、研究のための研究で、実用のためではなく「物質が何で出来ているのかを知りたい」と言う思いを追求するためなんだそうだ。解りやすく

 キュリー夫人の例を挙げてくれた。レントゲンを開発するために放射線を研究したのではなく、研究の結果、放射線がどんなものかがわかり、その後、レントゲンや放射線治療に

 活用されているということだ。今まで、目的があって、そこを目指していろいろなことをやってきたので、この考え方は新鮮だった。「ノーベル賞は、いつごろ取れるのか?」という質問にも、賞を取る為に研究している訳ではないとやんわりと回答が戻ってきた。ついつい目に見える結果を求めてしまう私には、これも新鮮な答えだった。こんなやり取りを

 聞いていると、物理学に専門知識もないし、私はとうとう質問することがなかった。

  

  

  その後、加速器の模型を見せてもらったりコントロールルームにも入れてもらえた。加速器の模型を先ほどの専門家が説明してくれた。ここに行った事でだいぶ理解が進んだ。それは、目の前に模型やモニターがあることも大きいけれど、説明してくれる専門家の目がキラキラしていて、とても楽しいそうだったからかもしれない。この内容は、きっと素晴らしいことなんだと感じた。同時に、この人たちは、どうしてこの実験を仕事にしようと思ったのか、毎日、どんな思いで研究=仕事をしているのか、研究の上で目標は何なのか聞いてみたくなった。中国だけでなくどこも時間、人、お金をかけて研究に取り組んでいる高エネルギー物理学の分野。それでも、解明されている部分の方がずっと少ないのだそうだ。自分の研究で宇宙の成り立ちやウイルスの正体が解明できるかもしれない。なんだか、魅力溢れる仕事だと思った。素粒子物理学の本も読んでみたくなった。

 取材の機会を与えられなければ、まったく興味を持つこともなかったであろう物理学。取材の機会を与えてくれ、私の世界を広げてくれたCRIに感謝して、ペンを置くことにする。謝謝!(文:高橋恵子、写真:王小燕) 暮らし・経済へ

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