中国最大規模の国際自動車展示会、「上海モーターショー」が先月22日から28日にかけて行なわれました。世界２０カ国から、自動車メーカー１３００社が参加し、会場には、各メーカーの主力車６００台あまりが勢揃いしました。世界の有名ブランド車が並ぶ中、中国の国産車も注目を集めました。なかでも、安徽省に拠点をおく自動車メーカー「チェリー自動車」は中国企業としては最多の、ニューモデル２６車種を出展し、その勢いを見せ付けました。

　チェリー自動車は１９９７年創業、創立１０年目にして国内業界第４位という業績を挙げている非常に勢いのある企業です。その躍進の秘密はどこにあるのか、安徽省蕪湖市にある「チェリー」の工場を取材してきました。

　上海の西、安徽省の蕪湖市にある経済技術開発区に「チェリー自動車」の本部があります。研究開発センターを備えた巨大な生産工場では、人気車種の「ＱＱ」をはじめ、「東方之子」「旗雲」「瑞虎」など７シリーズが年間４０万台生産されています。従業員数は１万８０００人。この「チェリー自動車」ですけれども、その躍進ぶりはデータにも顕著に現れています。昨年、２００６年の販売台数は３０．５２万台（前年比１６２％）。さらに、今年３月の販売台数は、国内業界トップを記録したと言います。

　「チェリー自動車」は創業当時からこだわっていたことがあります。それは、「自主開発」の車を作るということでした。その言葉の通り、「自分たちの手で自分たちの車を開発・生産する」ってことなんですけど、最近、中国ではよく聞かれる言葉の一つとなります。

　中国には海外の自動車メーカーが早くから進出していましたので、外資系の合弁企業がたくさんあるんです。品質に対する安心感も強くて、消費者が合弁企業の車を選ぶのはごく当たり前のことでした。逆に、国産車への関心はあまり高くなかったんです。

　ところが「チェリー」は、この合弁という方法をとらずに、創業当時から一貫して中国単独資本を貫いてきた。つまり、「自主開発」にこだわり続けてきたんです。「合弁企業に負けない、いい車を生み出したい。」その執念といいますか、根性が、今、花開いているというわけです。「チェリー」の強さの秘密について、総経理弁公室の金さんは次のように話してくれました。

　「開発チームには力を入れています。開発スタッフだけで４０００人を在籍させています。国内の専門家はもちろん、海外の自動車企業で働いた経験のある優秀な人材を多く採用しました。日本の方もいらっしゃいますよ」

　チームで市場調査を徹底して行い、これまで中国にはなかった、市場の隙間をついた商品展開を行っています。実はこれ、「チェリー」が発表している車を見れば一目瞭然です。たとえば、ヒット車種の「ＱＱ」。

　「小ささ」が「ＱＱ」ヒットの理由だと言われています。それまでの中国市場では、大きめの乗用車が主流だったそうですが、その中国市場で、今までになかったコンパクト・カーで、あえて勝負に出ました。それが、ファッションに敏感な若いホワイトカラーの間で大ヒットしたというわけです。特に女性にとっては、こういうかわいい車に乗ってみたいという思いはあります。

　次は色のかわいさです。「ＱＱ」のカラーバリエーションはビタミンカラーを中心にしています。こうした色使いはこれまでの中国市場にはなかなか見られなかったということで、人気を集めたようです。あと、デザインもさることながら、単純に安いというのも、消費者の心を捉えた理由ではないかと考えられます。

　普通、車を買おうと思ったら、10万元（日本円で150万円）くらいが必要ですが、「ＱＱ」は確か３万元（日本円で50万円）くらいで買えます。「車は高級なもの」という従来の概念を変えてしまったといっても過言ではないと思います。また、「ＱＱ」だけではなくて、このほかにも新しい感覚の車種を次々に発表しています。アウトドア志向の高いジープタイプとか、日本でも流行っていますが、車内空間が大きなワゴンタイプ。今回の上海モーターショーでは、最近のトレンドである環境にやさしい車「ハイブリッド車」も発表していました。この積極的な商品開発が、「チェリー」の強みなのだと思います。これについて、総経理弁公室の金さんは次のように語ってくれました。

　「おかげさまで業績は順調で、外部からの評価も高まっているのですが、それに甘んじていてはいけないんです。私たちはまだまだです。まだまだ努力しないといけないんです」

　この、謙虚なまでの向上心。この姿勢が、「チェリー」の業績を支えているのではないかと思います。実は最近、海外市場にも進出を始めていまして、中東や東欧を中心に、輸出が増えています。中国自動車企業としては輸出台数トップなんだそうです。このように躍進をつづけながらも、初志一貫、地道な努力を続けているところに、消費者は惹かれるのではないでしょうか。

　中国自動車市場の販売台数は、いまやアメリカについで、世界第２位。過去６年間で３．５倍に膨らんだ伸び盛りの市場で、世界各国のメーカーが火花を散らしています。そのなかで、「チェリー自動車」がどのような動きを見せていくのか、目が離せません。（「経済スクランブル」より）