このところ、新聞や雑誌でよく見かける「和諧社会」という言葉。日本語に直せば「調和社会」といったところでしょうか。
先日、2007年全国人民代表大会(全人代・中国の国会に当たる)が閉幕しました。その際、温家宝首相の全人代報告で再三言及されたのが、この「調和社会」の実現だったのです。いわば、中国の国づくりにおける合言葉になっているのですね。
分かりやすく言えば、より多くの人民が豊かさを享受できる、人民のための社会づくりです。すなわち、経済発展に伴い生まれた格差や問題点を解決し、バランスの良い社会をめざすということです。
では、中国社会が解決しなければならない問題点とは、具体的にどのようなことでしょうか。
まずは、経済格差の問題でしょう。2006年、中国のGDP・国内総生産は20兆元(日本円でおよそ300兆円)を突破、世界第4位となりました。しかし、人民一人あたりのGDPを見ると世界100位前後と、下位にとどまっています。
都市部と農村部、あるいは東部(沿海部)と西部(内陸部)に見られる経済格差を埋めるため、現在、さまざまな措置が講じられています。たとえば、農民所得の向上をめざした農業税廃止(昨年)。また、内陸部の省・市における都市化の推進や、戸籍制度の改革による雇用機会の創出。特に雇用問題は、今年、新たに1400万人の雇用機会を提供することが目標となっています。
また、社会保障システム、具体的には医療・教育などに格差が生じているのも事実です。こうしたシステムを整備していくことも重要視されています。
さらに、経済成長に伴い深刻化しているのが、資源・エネルギー問題です。これについては、再生可能エネルギー(風力・太陽熱・バイオマスなど)の開発・利用への研究が進んでいるだけでなく、環境保全に対する意識づくりなど、さまざまな対策が進んでいます。
このほか、外資企業と中国企業の所得税統一問題も挙げられるでしょう。外資企業は中国の高度成長に大きく貢献しましたが、中国企業から「外資企業に与えられた所得税などの優遇政策は公正ではない」とする声が挙がっていました。中国がWTOに加盟し国内市場が開放されつつあるなか、こうした競争条件の整備も必要となってくるでしょう。
さて、ここ安徽省ではどうでしょうか。
安徽省2日目、私たちは合肥市政府関係者から現状について伺うことが出来ました。合肥市の2006年の経済成長率は前年比17%増と、全国ナンバー1の伸び率を見せています。合肥市には経済技術開発区があり、長江デルタ地帯の経済を支える拠点として著しい発展を遂げています。しかし、人口の54%を占める農民の年収平均は、一人あたり3600元(日本円で54000円)にとどまっており、都市部との格差が生じています。また、旧来の制度では、農民や無職の人に対する医療保障がないなどといった社会問題も見られます。
合肥市では、2007年を「改革と刷新」の1年とするとしています。農村問題については「新農村建設」をめざし、農民に対する社会保障システムの整備を行います。特に、基本的なインフラ整備(飲料水など)や、医療室の建設などが急がれています。
また、合肥市には「巣湖」という大きな湖がありますが、「濱湖城(湖の町)」というイメージを全面に押し出した街づくりも目指しています。水資源保全や水運開発など、豊かな水の街として発展していきたいとのことです。ちなみに、市政府は、琵琶湖のある滋賀県も視察し、街づくりの参考にしたそうです。
さらに、新エネルギー開発の研究も進められています。特に、合肥市郊外にある離子体(プラズマ体)物理研究所では、人口増加や工業発展、生活レベルの向上に伴うエネルギー問題を解決するため、EASTプロジェクト(EXPERIMENTAL ADVANCED SUPERCONDUCTING TOKAMAK)に取り組んでいるほか、アメリカやEU、日本などとの共同プロジェクトにも参加しています。
「地方を見れば、中国のことがよく分かる」
中国の方から、よくこのようなアドバイスをもらうのですが、実際、ここ安徽省に来てみると、その「改革と刷新」への取り組みが垣間見られるような気がしました。
(取材・文/末永由希)
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