世界遺産めぐり、中国南方カルスト

　一時間目は、世界自然遺産に登録された中国の南方カルストをご紹介します。

　カルストとは、石灰質の大地が、長い年月を経て雨水などにより浸食されてできた地形です。海洋動物の化石などを多く含み、ヒマラヤ造山運動などの地殻変動で徐々に隆起し、今では海抜の高い土地も、かつては海底にあったことがわかる貴重な地質資料でもあります。

　貴州省の茘波、重慶市の武隆、雲南省の石林の３カ所のカルストは、「中国南方カルスト」として、2007年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。総面積は1460平方キロメートル以上で、中国のカルスト地形全体の約55%を占めています。

　では、まずは、貴州省の茘波をご紹介します。

　貴州省の省都・貴陽市から車で4時間余り、広西チワン族自治区に隣接する茘波県に着きます。県の総人口の90％以上をプイ族、シュイ族、ミャオ族、ヤオ族などの少数民族が占めています。

　シュイ族の人々が暮らす村のひとつが、茂蘭自然保護区内にあります。ここには、亜熱帯カルスト地形に稀少な動物や原生林が残っています。

　人口百人に満たないその村では、1人当たりの平均年収は650元、日本円にして1万円足らず。70代のおばあさんも毎日畑仕事をしています。一部、保護区内からの移転を余儀なくされた家や耕作を禁止された土地もありますが、基本的に村はそのまま保存の方向です。

　さらに奥へと入り、樟江風景名勝区を歩くと、どこか懐かしさを覚える光景が目の前に広がります。豊かな水をたたえた森の中の、水中に沈む木が透けて見える湖に、日本人なら、長野県の上高地の風景を思い出すかもしれません。小七孔と呼ばれる橋の下を流れる水は、翡翠のような色でまぶしく輝きます。その上流では勢いよく流れる滝の水が頬を打ち、マイナスイオンに癒されます。身も心も清められるような秘境です。

　次は、重慶の武隆県にあるカルストをご紹介します。

　1997年に四川省から直轄市として独立した重慶市の市街地から170キロ、車で4時間ほど烏江という川に沿って下ってゆくと武隆県にたどり着きます。

　総面積3.7平方キロメートル、壮大な鍾乳洞である芙蓉洞、水が上から注ぎ込む形で浸食されてできた「天が開けた穴」といわれるこの地の最大の特徴である天坑、天生三キョウなど大自然のさまざまな姿が見られる武隆は、カルスト地形の宝庫です。

　アメリカ人の大学院生エリン・リンチさん（30歳）、イギリス人のダンカン・コリスさん（32歳）らは武隆県内の村に住み込み、洞穴の調査、発掘を続け、情報の整理や地図の作成をしたりして6年になる「洞穴探検家」です。洞穴情報を少しでも多くの人に知ってもらおうと「紅瑰洞穴探検倶楽部」というサイトを通じ、世界に向けて発信する非営利の愛好家グループのメンバーでもあります。これまで延べ200キロ余りを歩き、調査を重ねてきました。ホテルではなく、民宿や農家に泊めてもらうという生活を続けています。

　おしまいに、雲南省、石林のカルスト地形をご紹介します。

　雲南高原の東部、省都昆明市から80キロ離れたイ族自治県内に位置し、年間平均気温は16℃で、石が林のように林立していることで有名で、名実ともに岩石からなる森林です。石林を歩くと、さまざまな形の石を見かけます。長年の風雨によって、石灰岩が浸蝕されて形づくられた、数え切れないほどの石峰•石柱•石筍が、独特で美しい景観を構成しています。毎年旧暦の6月24日に、伝統的な「たいまつ祭」が行われます。周辺の漢族やイ族の人々が石林に集まり、相撲や闘牛などの競技をして祭を祝います。夜になると、篝火（かがり火）を焚いて歌をうたい、龍舞、獅子舞、民族舞踊などで楽しみます。

　石林風景名勝区内には、地質博物館が設置されています。カルスト地形がいかに形成されたかという過程から、そこに生きる植物、生物、生態系を解説する展示が並びます。石林のみならず茘波や武隆を含む南方カルスト全般に関する写真、影像、地図などが中英2ヵ国語の説明で紹介されていて、見学する価値があります。

　皆さん、世界自然遺産、中国南方カルストに興味をお持ちならば、是非、貴州省の茘波、重慶の武隆、雲南省の石林を訪れてください。この3ヵ所を一度に、観光してもいいですが、それぞれの場所と現地のほかの観光地を一緒に楽しんでもいいですよ。

貴州省の黄果樹瀑布と貴州の酸湯魚

　二時間目は、貴州省の茘波県の基本情報をご紹介します。その後、茘波のアクセス方法などの関連情報をご紹介します。その次に、貴州省の有名な観光スポット・黄果樹瀑布をご紹介します。さらに、現地の代表料理、酸湯魚をご紹介します。ぜひお聞きください。（任春生）