中秋節の正しい過ごし方 吉野綾子
「中秋節の休みをどのように過ごすのですか?」と同僚に聞かれ、正直返答に困ってしまいました。私は日本でも、お月見のためにススキや、だんごなどを用意したことはなく、今、中国にいるといっても、中秋節というのは、カレンダーに書かれている3文字に過ぎず、特別何かをする日だとは思っていなかったのです。
しかし、中国では中秋節は、春節(中国のお正月)に次ぐ、盛大な祭日です。中秋節に語る思い出も一つもないというのでは、なんとも味気ない中国生活ではありませんか。これはひとつ中秋節らしいことをせねば!と思っていた私に友人が朗報を届けてくれました。ある茶館で、日本人を対象にした中秋節のイベントを企画しているというのです。参加の是非を問われ、一も二もなくうなずき、さっそく行ってきました。
向かった先は、ラマ教寺院「雍和宮」にほど近い五道営胡同(横丁)です。
昔の面影を残すこの横丁は、今や四合院(中国の伝統的家屋建築)を改造したカフェやレストランが立ち並ぶ新しい人気スポットで、若者たちでにぎわっています。その茶館は、横丁の東の端にありました。
伝統的な四合院の門前で「中秋節」の文字と受付の女性が出迎えてくれました。門は人が二人通れるぐらいの幅しかありませんでしたが、中へ入ると広い中庭と、中庭を囲むようにいくつもの部屋が並んでいます。どの部屋もオレンジ色の暖かなライトが灯され、アットホームな雰囲気を演出していました。
その中の一室へ通されるままに席へ着くと、テーブルの上には、桃、ぶどうといった果物やお茶が用意されていました。ほどなく二胡、琵琶、楊琴のなどの中国伝統楽器の演奏とともに、イベントが始まりました。まずは中秋節の由来、歴史などが、中国語と日本語の2ヶ国語で紹介されました。続いて、お茶屋ならではのデモンストレーション--おいしい中国茶の入れ方の実演です。今回淹れてもらったお茶は人参ウーロン茶。ウーロン茶に30種類の漢方薬がブレンドされているお茶だそうです。実際にいただいてみると、ほんのりと舌に甘みの残る、さわやかな味。漢方薬が入っているとは、聞かなければわからないほどです。お茶菓子はもちろん中秋節を代表する月餅。この一口大の小さな月餅は、なんとパイナップル味でした。最近はこのように様々な味の月餅が売られています。チョコレート、カスタード味、アイスの月餅なんていうのもあります。伝統的な月餅も時代にあわせ、様変わりしているようです。
その後も、太極拳の実演や、ゲーム、くじ引きなどが行われ、初めて出会った人々と食べたり、飲んだり、そして楽しくおしゃべりしながら過ごしました。最後には餃子もふるまわれました。楽しい時間はあっという間です。
楽しさを感じると同時に、自然に「来てよかったなあ」と感謝の気持ちが沸いてきました。「中秋節」と聞いて、何かとても特別なことをしなければならないと身構えていた私でしたが、今回のイベントを通じて、大切なことを思い出しました。「中秋節に何をしますか?」との質問に今なら答えることがきると思います。「大切な人たちと、食べたり、飲んだり、歌ったり、おしゃべりしたり、楽しく過ごします。」と。これこそ、中国人が受け継いできた当たり前ですが、大事なことだと体感しました。
(文責・写真:吉野綾子)
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