酒麹という微生物を作り出すことは簡単なようで、中々大変であったことは想像しただけでもお分かりかと思います。何しろ自然界には10万種類を超える微生物が存在しています。空気の中に水の中に、また土地の中、器、強いては口の中……と至るところにあります。
これらの微生物が食べ物に付着すると色々と異なる変化を引き起こします。澱粉が糖化したり、澱粉の酸性化を促したり、時には蛋白質を腐らせ、それに毒を持たせることもあります。
異なる微生物には異なる特徴、異なる生存方式があり、また、必要とする栄養、温度、湿度、環境などの条件も異なります。こうした中で、それも数千年も前、殺菌消毒の設備も無く、温度や湿度を効果的コントロールできる麹培養室も無い条件の下で、澱粉を含んだ穀物を酒を醸造するのに適した自然環境の中で、微生物を寄生、繁殖させ、更に酒の醸造に不利な微生物の繁殖を抑えるというのですから、その簡単なことではありません。
私たちの祖先は7千年から6千年も前にそれを成し遂げたのです。文字の記載では最も古いものが今から3200年前の商の時代、商王武丁の大臣との話に酒麹に触れた話が出てきます、
王の武丁は大臣に「若し酒醴(しゅれい)、造らば、汝(なんじ)、麹蘖(きくげつ)のみ必要なり」と話したと言います。つまり、その当時は既に麹蘖、酒麹を使って酒を作ることが大変普及していたことが伺い知れます。
それ以後数千年、麹をつくり、麹を使ってお酒をつくる『複発酵法』が応用され、これがわが独特の民族的風格を持った穀物醸造技術の源となっているのです。現在にいたっても、世界的に名の知れる醸造酒、蒸留酒は複発酵法を使って醸造しています。
麹の製作と麹を使って醸造する方法を編み出したことは中国の醸造技術の発展に深遠なる影響を及ぼしただけでなく、これはきた世界の醸造史上の輝かしい成果とも言えましょう。この方法は麦芽で糖化し、更に酵母で発酵させて醸造技術より一歩進んだ技術です。
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