漢の時代と言えば、シルクロードが開通し、東西文化の交流が始まった頃でもあります。バラ状から塊状の変化は形式の変化では済まされるものではありません。塊状の麹は表面と中では空気との接触がことなります。空気によく当る表面は麹菌の成長に有利で、内部の空気との接触の良くない部分では酵母、麹カビの繁殖を有利にします。1900年ほど前、『九醞酒法』と呼ぶ酒の醸造法がありますが、ここで使われる酒麹は原料の5%に過ぎません。当時の酒麹は麹カビが相当洗練されたものであることが分かります。麹カビの微生物が純粋でなければ、この種の役割を果たすことが出来ないばかりか、醸造も成功しないはずです。
塊の酒麹の誕生は酒麹の発展の中で、見逃すことのできない一里塚ともいうべく重要な段階です。また、醸造法から見ますと、当時の九醞酒法は近代の原料連続投入法によく似ています。つまり、もろみの中に、絶えず原料を投入し、麹カビの糖化作用でずっと適した濃度の元で発酵を続け、アルコール度を絶えず高めていくのです。この方法は醸造技術の飛躍的発展と言えましょう。近代の菌類培養法を切り開いたものであり、高く評価されるべきことです。
更に1600年ほど前の南北朝時代には、豊富多彩な農業科学専門書『斉民要術』が誕生しました。著者は南北朝末期に生きた賈思勰という太守を勤めた役人です。その第九巻で、九種類の酒麹のつくり方と39種類のお酒ンお醸造法について詳しく記録しています。記述の詳しさは中国はもとより、世界でも前例のないものです。
今から860年ほど前の宋の政和七年にお酒の専門書『北山酒経』がこの世に生れ、酒麹のつくり方からお酒の醸造法などを詳しく述べています。酒麹も13種類で、酒麹をつくる原料も以前に比べて種類がずっと増えています。著者は朱翼中と言って、医学に通じ、杭州で醸造所を持っていたこともあり、自らも造酒の経験のある人です。
中国人の祖先は菌類を応用して2500年前にお醤油やお酢を作り、2000年ほど前には納豆を作り、春秋時代には菌類、微生物を医薬に応用し、成果を上げました。中華民族が世界ではじめて微生物を発見し、それを広く応用した民族なのです。
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