それから数年後、石を探して方々を旅していた荊雲飛は、報国寺というお寺に来たが、その日は縁日なのか、かなりにぎやかだった。
荊雲飛は縁日など楽しむ気はなく、いつものとおり、必死に石を探していた。するとある男が石を売っているので近寄ってみると、それは自分の石であった。そこでこの石は自分のものだというと、石を売る男は、その石を担いで役所にいき荊雲飛を訴えた。これに荊雲飛はもちろん怒り、早速役人の前にでた。そこで役にが聞く。
「荊雲飛とやら、その方、何が証拠でこの石は自分のものだという?」
「もうしあげます。その石にある孔の数はいくつだかこの男は知っておりますでしょうか」
これを聞いた男は、九十二だという。そこで荊雲飛は、一番大きな孔に中には五つの文字が刻まれているが、どの五つの文字だと聞く。これに男は、顔を赤くしてそれは知らないという。そこで荊雲飛は「清虚天石供」の五文字だと答えた。そこで役人が下のものに調べさせたところ、そのとおりだったので、役人は男を捕らえるよう命じ、その場で棒で叩き懲らしめたので、悲鳴を上げた男は石は自分が市で買ったという。しこし考えた役人は石を荊雲飛に渡し、男を役所から追い出した。こうして荊雲飛は、久しぶりに石が戻ったので旅から家に戻り、今度は石をきれいな布でぐるぐる包み、箱の中へしまいこみ、暇なときに出して眺めては楽しんでいた。
さて、どうしたことか、この石のことをある大官が知り、金三百両で売ってくれと下のものを遣って頼みに来た。しかし、荊雲飛は自分の命よりも大事にしている石のこと、売るわけがない。これを聞いた大官は金千両ではどうだと聞きにくる。
これに荊雲飛は不機嫌になり、金一万両でも売らないと言い切った。これに怒った大官は、こしゃくなやつめ、今にみていろと謀(はかりごと)をして荊雲飛を落としいれ、荊雲飛を牢獄に放り込んだ。これに荊雲飛の妻と息子は戦き、かの石を金千両で売って、この金で荊雲飛を牢獄から助け出そうとした。これを知った大官は人を遣って石を出せば、荊雲飛は無事に牢獄から出られるというので、息子はこれを牢獄にいる父の荊雲飛に話した。
ところが、これに荊雲飛は怒るばかりで、それなら石と一緒に死んでやると答える。困った妻と息子は、仕方なく荊雲飛に黙って石を大官に贈ってしまった。
こうして荊雲飛は牢獄を出たが、家に帰って石がなくなっているのを見て事を知り、妻と息子をこっぴどく叱りつけ、何度も自殺しようとしたが、妻と息子がそのつど止めたので死ぬことはなかった。
と、ある夜、荊雲飛の夢にかの老人が出てきた。
「わしじゃ、わしはわざとお前さんとかの石とを一年あまり離れさせたまでのこと、あんずることはない。お前さんが命よりも大事にしている石を取り戻しはしない。いいか。来年の八月二十日に海岱門にいき、いくらかの金でかの石を買い戻しなさい」
翌日目を覚ました荊雲飛は、夢のなかの老人の言ったことをしっかり頭に刻んだ。
ところで、かの石は悪徳大官の家に持ち込まれてから、小さな孔は、霧のようなものを噴出さなくなり、かの見事な眺めは見られず、ただの小さな岩石となってしまったので、大官は怒り、そのうちにほったらかしにしてしまった。
そして翌年、どうしたことか、この大官の不届きや悪事がばれてしまい、職を追われただけでなく、牢屋にぶち込まれ、数ヵ月後に死んでしまったワイ。
こうして、その年の八月二十日に、荊雲飛は老人に言われたように海岱門にいってみると、大官の屋敷のものが、要らなくなったものを売っていて。中にかの石があったので、荊雲飛は黙って金二両でそれを買い戻し家に持ち帰っったあと、毎日石を見て暮らした。それから数十年がたち荊雲飛は八十九歳になった。これはたいした長生きであり、そのときは妻もとっくに亡くなり、息子も七十近くになっていた。
荊雲飛には、わかっている。かの老人が言うとおり、自分の寿命は石の孔の数より三つ少ないことを。そこで荊雲飛は、息子に棺おけを準備させ、自分が死んだあとのことをまかし、ある日の朝、笑顔浮かべて息を引き取った。そこで息子は、言われたとおりにかの石を父のなきがらと共に棺おけに入れて埋めた。
こうして半年が過ぎたある日の夜。荊雲飛の墓はなんと荒らされ、盗人はかの石を持ち去った。これを知った息子はどうにもならず、ただ、暴かれた父の墓を元のようしただけであった。それから三年たったある日、息子が供を連れて郊外を歩いていると、向こうから疲れ果てたのか二人の男がよろよろと近づいてきて跪き頭を下げた。これに息子がびっくりしていると男たちは言う。
「荊の旦那。あんたの親父さんに言ってくれ。これ以上わしらを脅かさないようにと。実は墓から盗んだあの石は、たった四両で売っただけだ」
こういうと二人の男は気を失ってしまった。そこで息子は供を役所にやって下役人を呼び、この二人を墓場泥棒として捕らえてもらった。そこで役人がこの二人を取り調べると、その不思議な石は宮という人に売ったという。そこで役人はその宮という人の屋敷からその石を役所に運ばせ、ある部屋で一人で石を眺めているとかの見事な景色が見られた。これに喜んだ役人が手下にこの石を蔵に収めるよう命じたが、その手下は慌てていて、運ぶときに落としていまい、石は割れてしまった。これに怒った役人はその手下を牢獄に放り込み、かの二人の墓場泥棒を処刑してしまったわい。
さて、息子だが、父が大事にしていた石が壊れたのでそのかけらを全部拾って父の墓に持っていくと、なんと石は元通りになった。考えた息子は、早速墓を掘り、棺おけを開けると、その石を父のなきがらの横に置いてまた元のように埋めたという。はい、おしまい。
そろそろ時間のようです、来週またお会いいたしましょう。
|