みなさん今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
今日のこの時間は、清の時代の怪異小説集「聊斎志異」から「地獄の仙人」というお話をご紹介したしましょう。
いつのことかわからん。利津というところに住む王蘭という男が、わけのわからない病のおかげで急に息を引き取った。こちらは地獄。手下の鬼が王蘭を連れてきたので、閻魔さまが調べてみたところ、なんとへまな鬼が間違えて王蘭を死なせたことがわかった。そこで閻魔さまは、その鬼をひどく叱りつけた後、王蘭をいち早く人間世界に戻すよう言いつけた。しかし、そのときには王蘭の体はひどく腐ってしまい、人間世界に返すのがかなり面倒なことになった。そこでへまをしでかした鬼は、この面倒なことをきらい、笑い顔を作って王蘭に言い出した。
「へへ、王さんよ。すまないことをしたね。しかし、あんたの体は腐り果てていて、これでは人間世界に戻るのはむずかしいよ」
「では、私はどうなる?」
「そこでものは相談だが、地獄の仙人にならないかい?そうしたら、生きているときと同じように楽しいんだぜ」
「ほ、ほんとうですか?」
「そうだとも」
これを聞いた王蘭はしばらく考えていたが、やがて決意したように答えた。
「じゃあ、地獄の仙人になりましょう」
「そうしなさい。そうしなさい」
「でもどうしたら、死んだ仙人になれるのかな?」
「実は、この地獄に一匹のキツネがいてね。そのキツネは不思議な丹薬を作り出したんだ。で、その丹薬を飲めば、仙人になれるんだ」
「じゃあ。そのキツネは?」
「そのキツネはここから少し遠い小屋に棲んでいるんだ」
「では、その丹薬を取りに行きましょうよ」
「よし、よし。あのキツネは俺一人では相手にできん。もし出くわしたら大変だから、俺は仲間を呼んでくる」
こうしてその鬼は、何人かの仲間を呼び、王蘭を連れてキツネの小屋にきた。
幸い、キツネは留守だったので、その丹薬をうまく盗み出し、王蘭に飲ませた。
すると王蘭は体が急に熱くなり、気を失った。気がついてみるとなんと我が家の玄関口に立っていた。そこで入っていくと、丁度母屋から出てきた妻や子供と出会った。もちろん、妻と子供はびっくり仰天。悲鳴を上げて逃げ出した。
これに王蘭は「自分はお化けじゃない」と何度も叫び、根気よく言い聞かしたので、妻や子供はようやく王蘭の話を聞くようになった。しかし、王蘭は自分がキツネの作った丹薬を飲んで地獄の仙人になったということは黙っていた。こうして王蘭はこれまでと変わらず暮らし始めたが、そのうちに自分には不思議な力があることがわかった。
さて、王蘭の幼友だちの張さんが、王蘭が生きて帰ったと聞いて訪ねてきた。そこで王蘭はこれまでのことを、人を信じやすい張さんに言い、仲のよいこの友だちに次のように話した。
「実は張さんだから話すのだが、私は地獄で方術を学んできてね。一緒に金儲けしようじゃないか」
これに張さんは驚き喜び、「いったいどうするんだい?」と聞く。
「私は薬がなくとも病を治せるし、占いなんかしなくともことがはっきりわかる。私は姿を消すことができるので、張さんは耳元で聞こえる私のいうとおりにことを運べばいいんだ」
「わかった。そうしよう」
ということになり、翌日、二人は山西に向かった。
こうしてある町にきたところ、金持ちの娘がおかしな病にかかり、毎日寝てばかりいて多くの医者に見てもらったが治らないので困り果てているということを知った。そこで二人は早速金持ちの屋敷に行き、張さんが自分はきっと娘の病を治せるという。これに金持ちははじめは怪しんでいたが、張さんは王蘭の言うとおりに喋り捲ったので、金持ちはそれではためしに見てもらうかと思い、もし娘の病を治せたら銀一千両を出すといって。娘の部屋に案内した。そこで仰向けに寝ている娘の脈をとった張さんに、姿を消している王蘭がいう。
「張さんよ。この娘の魂はこの部屋にはないよ。ここで待ってていてくれ、私が探してくるから」
これを耳元で聞いた張さんはかすかにうなずき、「あまり長くならないように頼むよ」とつぶやいた。
そして張さんは金もちに言う。
「あんたの娘さんの魂は誰かに持ち去られましたな」
「え?娘の魂が誰かにもっていかれた?ほんとでござるか?」
「私はうそなどいいませんよ」
「で、ではどうすれば?」
「えへん!ご安心なさい。いまさっき、わたしが仙人にたのんで娘さんの魂をとりもどしに行かせましたから」
「大丈夫ですかな?」
「私を信じていなさい。あんたの娘さんの病はきっと治して見せますよ」
張さんがここまで念を押すので金持ちはしばらく黙ったあと隣の部屋で仙人さまを待ちましょうと言ってお茶を出した。
こうして一時ほどたったころ、王蘭が帰ってきて張さんの耳に「張さんよ。この娘の魂を取り戻してきたよ」という。そこで張さんはニコッと金持ちに笑って見せたので、金持ちも目を丸くして立ち上がった。張さんはまた、娘の部屋に行き、王蘭に言われたとおり娘に額に手をあてた。すると、娘は不意にうなり始め、しばらくすると目を覚まし、はっきりしたまなざしで父を呼んだ。
「おお。気がはっきりしたようだな!これはよかった!よかった!」と金持ちは大喜び。そしていったいどうしたのかと娘に聞くと、娘は、あの日に家の庭で遊んでいると一人の馬に乗った少年がどこからか現れ、ぱちんこをもって木の枝に止まっている鳥をうち落とし始め、そのあとから何人かの供らしい者がついてきた。驚いた自分は隠れようとしたところ、少年は馬の上から自分を抱きかかえ、私と遊ぼうという。そこで自分は怖くなり泣き出したところ、少年は苦い顔をして自分を放さずいたが、しばらくして自分は激しく泣き出した。そこで少年は自分を道端に下ろして、供の者と行ってしまったという。自分は帰る道もわからないのでその場で泣いていると、ある人が家まで送るといって、自分の腕をしっかりつかみ、馬を飛ばして屋敷に着き、今さっき自分は気がついたという。
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