実は、この川の底には、これまで数千年も生きているいうカニの化け物がいて、このカニがペーカンの美しさに見とれ、彼女を掻っ攫って行ったのである。
カニはペーカンを川底に連れて行くと、不意に美少年にかわり、自分の妻になれと言い寄る。ところがペーカンがこれを断り、自分を襲おうとした美少年をひっぱたいたので、怒った美少年はパッとカニの姿に戻り、恐ろしい声を出してペーカンを脅かした。
ところが、この怒り声が大きすぎ、なんとかなり離れた川上に棲んでいた花模様の竜のところまで聞こえた。
「何だ?今の声は!?」と竜は気持ちよく寝ていたところを起こされたので機嫌が悪かった。そこで人に迷惑をかけるのはどこのどいつだと怒り出し、川底にある洞窟から出てきた。竜は先ほどの声がした川下のほうにもぐって泳いで行ったので、陸からは川面に大きな波が立ち、その波が自分で進んでいくように見える。やがてかのプカ夫婦が渡った橋の近くまで来ると、壊れかけた橋の近くで人間どもが何か騒いでいる。
「うん?どうしたんだ?」と竜が川面から大きな顔をだしたので、岸辺にいた人々はびっくり。みんな逃げ出し始めたが、一人の年寄りがいう。
「皆の衆、この竜はわしが若いときに見たことのある。これまで悪いことしとらん」
これを聞いて村人たちは恐る恐る戻ってきて、この竜にプカの妻を捜してもらってはと言い出す。これに年寄りはうなずき、声を大きくして竜に言う。
「竜さんよ!わしらの村のプカの妻が何者かにさらわれた。すまんが、あんたなら探せるだろう」
すると竜は人間の言葉がわかるのだろう。首を縦に振ると川底にもぐっていった。
人々がこれからどうなるかと固唾を呑んで見守っていると、川面に渦巻きができ、そのうちに大きな波が立ち始め、渦巻きの真ん中から黒い煙みたいなものが上がった。
「なんだ?なんだ?」とみんなは思わず後ずさりする。
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