ばあさんがこういうので、殷元礼はそのデキモノを調べていたが、やがて「ああ、このぐらいなら治せますぞ。しかし、膿を出すので少し痛いが我慢しなされ」という。そして薬を出して丁寧に手当てをしてから包帯をした。
「さあ、これでよいでしょう。明日の朝、薬をとりかえますからな」
これにばあさんは、「痛みが少しとれたわい」という。
これを聞いた二人の男は笑顔になり、火であぶった鹿の肉を持ってきて
「先生、さあ、遠慮なく食べてください。しかし、うちには鹿の肉しかないが・・」という。このときなって殷元礼はそれまでの恐ろしさがまったくなくなり、ちょうど腹もペコペコだったので、その鹿の肉を腹いっぱいだべ終わると、班爪が、疲れただろうから、こちらで休めという。こうしてその夜、殷元礼はこの山の崖下の家で横になった。しかし、やはり気味悪さが残ってなかなか眠れなかった。やがて旅の疲れもあってか、夜半に寝てしまった。
さて、翌朝はやく、殷元礼は目を覚ますと、さっそく奥の部屋にいき、かのばあさんの具合をみた。包帯を取ると、デキモノからは膿がなくなり、かなり良くなっていたので薬を取替え、これで大丈夫だという。
「お医者さん、すまんねえ。おかげで今では痛みも取れ、熱は下がったよ」とばあさんが言う。するといつの間にか殷元礼の後ろに来ていた班爪と班牙の兄弟が、「先生よ。すまなんだな」という。
このとき殷元礼は、自分は先を急ぐのでここを離れると言い出したので班爪と班牙は、「何もないが、途中での腹塞ぎにしてくれ」と焼いた鹿の肉を殷元礼に持たせた。
さて、それから三年経ったある日、殷元礼は用事で旅をし、またかの山道を通ったところ、なんと二匹の狼に行く手をさえぎられ、どうしようかと困っていた。そのうちにほかの狼もやってきたので、殷元礼がおどおどしていると、一番前に出た大きな狼が不意に殷元礼に飛び掛ってきて殷元礼を倒した。するとほかの狼も殷元礼に襲い掛かり、殷元礼は必死になって両手で顔を覆いばたばたしていた。
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