今度は「国史補」から「彪と虎」です。
「彪と虎」
斐旻(ヒビン)は竜華の軍事長官で、北平の守りについていた。彼は弓が得意で、その大力をたよりに、これまで一日に三十頭あまりのトラを射殺したという。
ある日、斐旻がこの日も多くのトラを射殺し、ふもとで酒をくらい、いい気でいると、一人の爺さんが現れ、相手が長官だというのに、立ったままでいう。
「もしもし。長官さまよ。あんたが射殺したのは、小さいトラで実は彪という奴さ」
「なんじゃと?」
これに斐旻は驚いた。
「あんたが本当の虎に出くわせば、そう簡単に射殺せるはずはない」
「何だ、じじい!何をぬかしやがる!」
「まあ、そう、いきり立つこともあるまい」
「うそつけ!このわしを侮る気か!」
「いや、いや。そうではござらん。わしはただ、あんたが物を知らずに威張っておるから、わざわざここまで来たんじゃ」
「おのれ!ふざけたじじいだ!」と斐旻が弓を手にしたところ
「ははは!そのうちにわかる!あ、言っておくが、本当の虎はここから北三十里の山におるよ」と爺さんは言い残し、ふと消えてしまった。
こちら、怒った斐旻は、その足で部下を率いてかのじいさまの言うとおり、北へ三十里行ったところにある山に来た。
「あのくそじじいめ。長官であるわしを馬鹿にしおって!」とぶりぶり怒りながら、弓矢を手に山に入っていく。やがて岩山が見えるところに来たが、そこで一休みと、ひょうたんに詰めてある酒をのんでいると、急に風が出てきて、寒気がした。
「ど、どうしたことだ?」と部下と共に驚いていると、山の上から一頭の大きな虎がのっそり、のっそりと下りてくるのが見えた。
「何だ?あれはトラか?これまでのよりもぜんぜん大きいいぞ」
こんな大きな獣を始めてみる斐旻は、どうしたことか震えだした。と、そのとき、かの虎がものすごい声で吼え、その声は山や谷間に馬鹿でかく響いた。
これに斐旻は、腰を抜かしてしまい、部下の助けのもとに慌ててその場を逃げ出した。
それからというもの、斐旻は弓矢を手にすることはなかったという。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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