「さあ、さあ。先生、今日は遠慮なく飲んでくだされ。この間は何も出せずすみませんでしたわい」
ここまで言われ、それにばあさんは自分に本当に感謝しているということがわかったので、殷元礼は、すみませんな、それでは、とばあさんに勧められるまま、飲んだり食ったりしたが、ばあさんも自分と同じように飲み食いしている。
で、そのうちに酔いが回り、殷元礼はいつの間にか寝てしまった。
さて、どのぐらいたっただろう。冷たい風が吹き、殷元礼は目を覚ました。それはなんと次の日の朝だった。それに自分は、昨夜見た小屋の中ではなく、大きな平たい岩の上に寝ていたのだ。驚いた殷元礼がそばにおいてあった自分の荷物を持ってそこを去ろうとすると、岩の下の方から大きないびき声が聞こえる。そこで殷元礼が岩を下りると、なんと大きな虎がいびきをかいて寝ており、その口元にはデキモノが治った跡があった。
「うへ!」と驚いた殷元礼は、虎を起こしてしまっては大変だと、抜き足差し足でその場を離れ、あわてて昨日歩いた山道をあたふたと去っていったわい。
それにしても、恩を忘れない虎の親子だと、殷元礼はあとで感心したという。
|