今度は「子不語」から「起上り小法師」です。
「起上がり小法師」
むかし、蒋さんという人が旅に出で、鞏(きょう)県まで来たが、日が暮れてしまい仕方なく宿に泊まることにした。その宿は大きく、とてもきれいに掃除してあるが、今夜は西のはずれの部屋しか空いていないという。そこで蒋さんが、いくらか困った顔をしていると宿のおやじは、意地悪そうな顔をしていう。
「お客人、あんたは肝っ玉が太いのかな?」
「なんだと?」
「実は、西のはずれの部屋で時にはおかしいなことが起きますのでな」
これを聞いた蒋さん、幼いときから怖いものなしときている。それにこのおやじに笑いものにされるのがいやで、「よし!その部屋に泊まろう!しかし、急いでいるので明日朝は早いぞ」と答えた。
こうして蒋さんはその西のはずれにある部屋に入ったが、部屋には何の変わったところもなかったので、夕餉にうまい酒と肴を腹に収め、いい気になってその夜は床に入った。ところが、夜中に机の下から変な音がする。酒に強かった蒋さんは、酔ってはいなかったのでこれにすぐ目を覚ました。
「なんだ?いまどき?」と明かりをつけてみると、なんと机の下から背丈が三寸あまりの小人が、黒い服をまとい、下役人のような格好で、床の上に座っている蒋さんをしばらく睨み、すぐに姿を消した。
「なんだありゃ?」と蒋さんが、少しも怖がらずにいると、今度は何人かの小人が出てきた。どうもお偉方を迎えるようだ。しばらくして車に乗ったお偉方らしい小人が出てきた。このお偉方は下役人を叱りつけ、そのうちに床に上の蒋さんを見て、同じように叱り始めた。しかし、その声は小さく、蒋さんにははっきり聞こえない。蒋さんが笑顔でこれを見ているので、そのお偉方は顔を赤くして怒り出し、地団太を踏んでいる。
そして下役人どもに床に上がらせ、蒋さんを床から落とそうとした。しかし、三寸の小人たちに蒋さんを落とせるわけがない。
これにお偉方は我慢できないのか、腕をまくって床に上がろうとしている。そこで蒋さんが手を伸ばして、このお偉方をつまみ上げ、机の上に置いた。そしてよく見てみるとそれは起上り小法師であり急に動かなくなった。これを見た下役人どもは慌て、一斉に土下座して頭を下げ始めた。
「なんだ?お前ら、この主人を助けたいのか?」と蒋さんが聞くと、下役人どもは一所懸命頭を縦に振る。これに蒋さんは笑い出し、ふざけて「よし、主人を逃してやるから、そのかわりに何かもってこい!」と言いつけた。
すると、下役人どもは一斉に立ち上がり、どこかへ行ったかと思うと、しばらくして金の腕輪、玉のかんざしなど金目のものを小さな体でえんやこらえんやこらと必死になって部屋に運んできた。そこで蒋さんは、ご苦労さんと一声かけると、机の上の起上り小法師をつまんで地べたに置いた。すると起上り小法師は生き返ったかのように動き出し、今度は下役人らに命じて、ばたばたとどこかへ逃げていってしまった。
こうしてやがて夜が明けた。が、蒋さんは、急ぎ旅なので早くから支度し、宿賃を払ってどこかへ行ってしまっていた。しばらくして宿のおやじが騒ぎ出した。
「大変だ!大変だ!うちの金の腕輪、玉のかんざしなど金目のものが、昨夜のうちになくなっている!」とね!!
はい、おしまい!
そろそろ時間のようです。では来週お会いいたしましょう。
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