ところで、曹参が毎日酒びたりになり、宰相としての役目を果たさないのには当時の漢の恵帝も不満を覚えていました。こんなエビソードがあります。
二代目皇帝の恵帝は、宰相である曹参が政をほったらかして酒ばかり飲んでいるので、もしか、年若い自分を軽く見ているのではないかと心配でたまらなかった。そこで、曹参の息子の曹チュツを呼び出した。
「その方、家に帰ったら、さりげなく父親に、『毎日毎日酒ばかり飲んでいますが、宰相の仕事をどうなさるのですか?皇帝はまだ年若いので、父上がお助け申し上げるのがあたりまえでしょう?このように毎日お酒を飲まれ、政をほって置かれては、天下のことを如何に配慮するのです?』と聞いてみよ。ただし、朕が言ったと言ってはならぬ。その方自身の考えとしてきくのだぞ。」
これには曹チュツも、自分の父親の怠慢ぶりを心配していたので、皇帝の言葉に自分の考えを加えて、父親に言うことにした。
曹チュツは、屋敷で父とのんびり休んでいるときにかの事を切り出した。
しかし、曹参はこれを聞くと顔色を変えて怒鳴りだした。
「ばかもん!お前に、何がわかる!!天下のことに口出しするな!はやくお前の務めに帰れ!」
そして曹参はなんと息子を鞭で繰り返し打ったので、息子は半殺し状態になったという。
さて、数日後に曹参が久しぶりに入朝し恵帝にお目見えした。こちら恵帝はどこから聞いたのか、曹参がかの件で、息子の曹チュツを鞭でひどく打ったと聞いていたので、曹参を叱った。
「そちはどうして、曹チュツをひどく罰したのだ?あの者ががそちに述べた意見は、実は朕の意見だったのじゃぞ」
これには曹参、あわてて官帽を脱ぎ、跪いて謝った後、切り出した。
「・・・私めには、陛下にお聞きしたいことがございます」
「うむ、申してみよ」
「陛下。お考えくださいまし。・・・高祖(劉邦)さまと陛下では、どちらの才能が優れていると思いまするか?」
この問いに恵帝はいくらか戸惑った。
「うっ。・・何を申す!朕は父上の高祖さまにはとても及ばぬ」
「では、私めの才能と、蕭何どの才能とではどちらが優れていると思いますか?」
「うん・・それは、蕭何の方が優れているかもな。そちは蕭何に及ばないのではないか?」
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