これをきいた童子傑は、驚きのあまりに剣を落としてしまった。このとき、庭から七何から動く気配がした。これを耳にしたのか、かの化け物はふと姿を消したので、童子傑が剣を拾うのも忘れて突っ立っていた。すると庭では明かりを手にした十数人の女子が現れ、その真ん中からきちんとした身なりの中年の婦人が静かに部屋に入ってきて、応接間の真ん中にある席に座った。
これを見た童子傑は、慌てて跪き一礼した。すると婦人が言う。
「お前はなんですか?人の屋敷に黙って入り込み、この応接間で寝てしまったりして」
「こ、こ、これはどうも失礼したしました」
「あまり勝手なまねをするから、先ほどの化け物たちがお前を脅したのですよ」
「ど、ど、どうも。お許しください。私は恐ろしさのあまり、剣を落としてしまいました」
「ふふん。お前はまだ正直者ですね」
これをきいた童子傑は、先ほどの化け物はこの婦人を怖れていたようだが、女子にいったい何ができると思い、相手が隙を見せているときに、すばやく剣を拾い、婦人めがけて突き出そうと思ったとき、婦人はにこっと笑っていう。
「お前も大胆不敵な奴ね。正直者だから剣術を教えようと思っていたのに、この私を剣で殺そうとは!おろかな!」
これに童子傑は首を縮め、黙ってしまう。
「私を殺す気なら、殺して見なさい。さ、私の首を切り落とすのですよ」
婦人はこういって首を差し出し「もし、殺せなかったら、お前は死ぬのですよ」と笑いながらいう。
これに童子傑はまたも驚いたが、どうしたことか、両手が急に重くなり、また剣を落としてしまった。
「お許しくださいませ。もう変な考えは持ちませぬ」
「そうでしょうね。お前は生意気なところはあるものの、まだ救いどころがあります。わたしは剣仙の一人ですが、この屋敷では化け物が悪さをしていると聞いてその退治にきたもの。いまさっきの化け物は、実は私の弟子が扮したのです。お前は珍しい剣を持っていると聞いたので、お前を試しただけのこと。お前はその剣を持っているにもかかわらず、腕はたいしたことはありません。だから、私が教えてあげようと思ってこうしてやってきたのです」
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