さて、夜が明けて童子傑が、すっきりした気持ちで屋敷の玄関を出ると、昨日の商人が冷やかし顔で外に立ち、「昨夜はどうでした?」と聞く。
童子傑はほんとはいくらか腹を立てていたのだが、よーく考えてみると、この商人のたくらみのおかげで、自分の剣術が上達し、素晴らしい師匠にも会え、また懐には化け物を詰め込む袋まであるのだから、ある意味では喜ぶべきだとおもい、ニコニコ顔で商人に応えた。これには商人は不思議な顔。そんなことにはかまわず、童子傑は宿に帰ると支度をして、一人で旅を続けた。
そのご、童子傑は道士となり、剣術の修行に励み、民百姓のためにたくさんの化け物などを退治したが、金は少しも取らなかった。
ある日のこと、揚州のある女子が化け物にうなされ、重い病にかかり死にそうになっていた。これを聞いた童子傑は、その女子の部屋には入らず、なんと遠くの川辺にやってきて、化け物が出てくるのを待った。夜になってその顔の化け物が川面から姿を見せたので、童子傑は剣をその化け物に投げつけると、剣は化け物のお腹に刺さり、そこから臭い水が流れ出し、そのうちにその化け物は、童子傑が口を開いて待っていたかの袋に吸い込まれてしまった。すると、かの女子の病はよくなったという。
また、ある家では狐につつまれたというので、童子傑はその家の玄関で剣を抜き、屋根に上がって「えい!」と一振りすると、キャンという鳴き声と共に一匹の狐が屋根から下に落ちた。そこで童子傑がかの袋の口をあけると、狐はその袋のに吸い込まれていった。
この袋は長さが約二尺あるだけで、大きな化け物などがどうして中に入ったのか分からんと、これを見ていた人々は首を傾げるばかり。
のちの乾隆帝の時代に、童子傑は師匠に言われたとおりに、武術の聖地と言われる武当山にのぼり、二度と世間には戻ってこなかったという。
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