これには童子傑は、頭が上がらなくなり、また一礼した後、「お師匠さま。どうかお願いいたします」といって土下座した。
そこで婦人はにこっと笑ったあと、剣を見せなさいといったので、童子傑はさっそく剣を拾って婦人に差し出した。剣を受け取った婦人は、しばらく品定めをしたあと、「これは道家の剣じゃ。神の剣のようにいろいろな変わった技は使えないものの、確かに化け物だけは退治できる。しかし、お前の使い方が悪い、まだ未熟じゃな」と静かに言う。
「では、その剣の使い方を教えてくださいまし」
「まずは、正々堂々と相手と渡り合う気持ちをしっかり持つことじゃ。そうしてこそ、邪道を打ち負かすことができる。また義を重んじて、強い者をくじき、弱い者を助ける心構えがしっかりしていてこそ、その得物がものをいうようになる」
これを静かに聞き入っていた童子傑が何度もうなずいたのを見て婦人は、剣を手に立ち上がり、庭に出て後からおとなしくつい出てきた童子傑に剣術を教え始めた。で、時は夜中だというのに、あたりは昼のようにはっきり見えたので、童子傑は一心に教えを請い、必死になって剣を振るっている。
やがて東の空が明るくなり始めた頃に、婦人はこれでよしというと、横で控えていた弟子に小さな袋を出させ、それを童子傑に渡していう。
「よいな。私は仙境に暮らす身ゆえ、お前とはそう容易く(たやすく)会えるものではない。お前はこの袋を持って天下の化け物をこの袋に中に収めるのじゃ」
「え!?この袋に天下の化け物を?」
「そうじゃ。いまのお前ならできよう」
「は、はい。わかりました」
「そうじゃな。十年後に私は武当山の上で待っておるゆえ、袋を持って私に会いに来るがよい。お前がどれだけやったか見てみよう。これから剣の道を究めなさい」
「お師匠さま。わかりました。十年後に私は必ずお師匠さまに会いに行きます」
これを聞いた婦人は、やさしい微笑を残し、多くの弟子たちと共にその場を去っていった。
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