「さあ。今日は酒代は俺が持ちますからどんどん飲んでくださいよ」
こういって裴度もどかっとすわり、運ばれてきた酒を飲み始めた。こちらごろつき達は、今日の酒がただになったんだから、それは遠慮なくまた飲み始めた。
「さあ、さあ。飲んでください」と裴度は酒を勧め、しばらくしてそろそろ始めるかと急に横にいた男の顔をみていう。
「どうです?飲み比べやりませんか?」
「なんだと?大酒のみの俺達と酒の飲み比べやるってのか?」
「そうですよ。こうみても俺は酒の方だけはかなり強いんでね」
「ほほう!言ったな。よし、おい!誰かこいつと酒の飲み比べやれ。どうせいくら飲んだってこいつが金を払うんだ。かまうことねえやな」
「よし!これまで酒で酔いつぶれたことのない俺さまが、おめえと飲もう」
といって一人の大男が、裴度の向かい側にすわり、「おい!小僧!大きな茶碗と酒をもってこい」と怒鳴った。そこでいくつかの茶碗と幾つもの酒樽が運ばれ、裴度とこの大男はそっちが一杯ならこっちも一杯という具合にがぶがぶと飲み始めた。ところが二人とも飲めるは飲める。しばらくして一つの酒樽が空になったが、二人は顔が真っ青になっただけで、酔わない。これをごろつき達が、横でニヤニヤ見ている。こうして二つ目の酒樽が空になろうとしたとき、裴度が不意にげらげら笑い出し、相手を見ながら言う。
「ははっはっは!お前さんもかなり飲めるが、顔がおかしく見えるぜ。ああそうか!初めからおかしな顔してたのか!」
「なんだと!?このやろう。お前酔っ払ったな!そうとなれば、俺の勝ちだ!」
「冗談じゃない。こんな酒ぐらいで俺が酔うもんか!何しろお前はおかしな面してるよ。馬鹿な顔してるといっていいな」
これに大男は怒り出した。
「このやろう!お前が酔ってるからお前にちゃんと答えてやったんだ。それをなんだと?このやろう。いくら酔っていたって人を馬鹿にするんじゃねえ」
「馬鹿にするったって、初めから馬鹿だったんだろう」
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