次もヌルハチにまつわるお話。「黄金の肉揚げ」
「黄金の肉揚げ」
時はヌルハチがまだ少年のころ。家が貧しいので、家を離れ撫順のちかくにいた女真族のある頭領のもとで飯作りの手伝いをしていた。この女真族の頭領は食べ物にはうるさく、いつも宴のときは八つの料理に一つの汁料理を出すよう決めていた。宴を設けるときは決まって部落の中で一番料理が上手が年寄りを呼び、この日はなんとヌルハチにそれを手伝わせた。
こうして宴がはじまり、年寄りが七つ目の料理を作り終わったとき、疲れたのか急に倒れてしまった。これを見たヌルハチが慌てていると、厨房の外から、八つ目の料理を早く出せという声が聞こえた。もし、八つ目の料理を出せなかったり、出すのが遅れたりすれば、酷い眼にあうことは知っていたので、ヌルハチは慌てたものの、賢い彼は「慌てるな!」と自分にいいきかせ、横に程よく切り終わった赤みの肉があるのを見て、すぐにいくつかの玉子をお椀に割って箸でとき、それに赤身の肉に絡ませ、油を熱くして一つ一つ丁寧に揚げて皿に並べた。そして味付けがまだなのを思い出し、塩やゴマなどをつぶしてそれにふりかけ、出来上がりましたと宴に出した。
さて、新しい料理がでたので、頭領は客人に箸をつけるように勧め、自分もそれを口にした。
「うん!これは変った料理ですな」と客が褒める。
「ほうほう!こんな料理はわたしもはじめて。うん、なかなかいける。さ、杯を空けてくだされ」
こうしてこの夜の宴は何も起こらず終わったので、ヌルハチはほっとし、横で休んでいる年寄りをその住まいまで送っていった。
と、翌日、頭領が昨夜の八つ目の料理のことを覚えていて、手下に年寄りを呼ばせた。そして頭領が聞くと、正直者のこの年寄りは自分が、そのとき疲れて目眩がしたので八つ目の料理は手伝いの小僧が作ったと話した。これを聞いた頭領、さっそくヌルハチを呼んだ。そこでヌルハチ、ありのままを話すしたので頭領は喜んだ。
「うん、うん。わかった。お前も賢い奴だな。見所がある。ところであの料理はなんという名だ?」
これを聞いてヌルハチは考え、料理が黄色い玉子と油で金のように光って見えるので「黄金の肉揚げ」ではどうかというと、頭領は笑ってうなずき、「客も喜んでいた。わしの面子が立ったワイ。ではそういう名ににしよう」とヌルハチに褒美を与えた。
こうしてこの部落ではこの「黄金の肉揚げ」が卓上に出るようになり、のちにヌルハチが後金の国をうちたて清の太祖となったが、彼はいつもの大きな祝宴にこの「黄金の肉揚げ」を最初に出させたという。その後、清朝の各皇帝も太祖が編み出したという料理を最高級品とし、祖先を忘れぬよう一族に教えたらしい。
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