「さ、どうぞ。いまあんたがたに出せるものは今、これしかありませんものでね」
こちら正徳帝と側近は、あまりの空腹なので一息に食べてしまいたいのをこらえ、箸を丁寧に取りわざとゆっくりだべはじめた。しかし、お粥が口に入ると、一粒一粒のやわらかくなった米のなんともいえない香りと味が口中にひろがり、それがより大きな食欲を誘い、二人の手と口の動きが早くなり、すぐにお粥を食べてしまった。そこで老婆がお椀にお粥を注ぎ、「この麦螺鮭(まいろーくえい)もいおしいですよ。お粥にぴったりあいますから」という。もちろん、正徳帝らは二杯目のお粥を食べながら、この貝の漬物に手を出し始めた。するとお粥がよりうまくなり、瞬く間に二杯目はなくなった。これをみた二人の老人は微笑みながら三杯目を出す。こうして正徳帝と側近はなんど十数杯ものお粥と三皿の麦螺鮭(まいろーくえい)を平らげてしまった。
食べ終わって一息ついた正徳帝は顔を少し赤らめ「これはこれは、あまりにも空腹だったので、かなりご馳走になりました。で、このお粥はなんといいますかな」
「ええ?ははは!こんな田舎にたいしたものはありませんわい。そんなに気に入られたのであれば、名をつけましょう」と老人は暫く考えて言った。
「やわらかくなった米は真珠のようですから真珠粥と。そして貝の漬物はオオトリの目のように光って見えますので鳳の眼にしましょう」
「これはおもしろい。真珠粥に鳳の眼ですね。けっこうですね。ところで聞き遅れましたが、ご老人は?」
「ああ。わしですかな。田舎ものですワイ。蘇といいます」
「蘇のご老人ですね、わかりました」
こういって正徳帝は側近に金を出させ、二人の老人が受け取らないというのを無理やり受け取らせ、では失礼いたしたと言い残してそこを離れ、何とか夜までにに宿に戻った。
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