「なにがおかしい?変な声で笑いやがって」
「笑うのは俺の勝手だ。それこそお前は何者だ?」
「俺は、ここに住む化け物だ。お前は怖くないのか?」
「怖い?化け物が怖くてこんなさびしいところへ来るもんか。まぬけだな」
「なんだと?ははあ、お前はふらふらしえるな」
「ああ。酒は俺の一番の友よ」といった林さん、急に相手をからかってやろうと思った。
「実は、俺も化け物なんだ。今夜はつまらねえから、酒の相手をさがしにきたんだ」
「へえ?酒の相手?」
「ところで、あんた背が高いが、おかしな格好してるな」
「そうさ、手足はまだちゃんと伸びていないんだ。あんたみたいに人間に似てないよ。ところでいま言った酒ってなんだい?それにあんた腰にぶら下げているひょうたんに何が入っているんだい?」
「これか?これはいま言った酒が入っているのさ。酒はうまいぞ?」
「うまいのか?じゃあ、俺にも味見させてくれんか」
ここまで聞いた林さん、頭が少しはっきりしてきたようだ。そして化け物を相手に話している自分に驚いたが、ここは踏ん張らなきゃと思って言った。
「いいよ。酒はうまいよ。飲んでみるといい」という。
「それはありがたいが、実は俺は腰が曲がらないんで、あんた俺の口に酒とやらを入れてくれ」と化け物は言って大きな口をあけた。
その大きさに林さんはびっくりしたが、ここが大事だと怖くなってきたのをかくし、酒がいっぱいに入ったひょうたんの蓋を抜き、その大きな口の中になんと全部流しいれた。すると化け物の喉がゴクゴクとなり、どうも酒を全部腹に収めたようだ。
「ウヒー!うまいねえ。酒というものは。あれ?あたまがふらついてきたぞ。あれ?どうしたんだ~???」と化け物は言いながら、初めての酒らしく、林さんが一度にたくさん飲ましたので、化け物は依ってぶっ倒れてしまった。
そこで林さん、いまだと思い、まわりをみたところ、近くに大きな石ころが転がっているのを見つけ、さっそくそれを持ち上げ、ぶっ倒れた化け物めがけて何度も何度も打ち下ろした。すると「バキッ!バキッ!」という音がして化け物は動かなくなった。このとき、林さんは急に怖くなり、さっそく村に帰って隣近所の人々を呼んだ。そこでみんなは半信半疑で明かりを手にかの墓場に来ると、なんと腐りかけた大きな棺が血がを流してめちゃめちゃにつぶされていた。
こうしてそのときからこの墓場では化け物が出なくなったので、林さんが退治したのは確かにかの化け物だということがやっとわかり、隣近所の人々は約束どおり、酒とうまい料理を用意して林さんにご馳走した。
さて、このことがあってから、林さんの酒癖もよくなり、みんなから好かれたという。
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