于さんは身を引いて横に飛んだので、化け物の刀は于さんの後ろにあった石の灯篭にガチンとあたって灯篭が壊れた。その隙を見て于さんは、なんと化け物の脇の下から走り抜け、化け物の足に思い切りつけた。するとガチッという音がして化け物が悲鳴を上げた。これに怒った化け物は、振り向いて于さんを切る。刀は于さんの右袖を切り裂いたが、于さんは恐れず、すばやく化け物の懐に入り、腹を思い切って突いたので、化け物は「ウオー」という恐ろしい声を出しぶっ倒れてしまった。これをみた于さんは化け物に近寄り、剣を振るって化け物を何度も何度も刺した。そして化け物からいくらかはなれて様子を見ていたが、化け物が動かなくなったので部屋に入って明かりを持ってくると、この化け物は木で出来た大きな人形であった。しかし、切られたところからは確かに血みたいなものが流れている。そこで于さん、部屋に戻って明かりを手にし、庭で夜が明けるのを待った。一方、下男のほうは、ぐっすり寝ていて、夜半に主人が大変な目にあっていたことはまったく知らなかったという。
翌日、于さんは宿の主を呼び、夜半の出来事を話すと、主は「以前にも変なことがありまして、あの不気味な術をもつ易者があとで喜んでいたと聞いております。おかげでこの町の宿に泊まる客がすくなくなり、わたしらどもは困っておりました」
「そうでござったか。ではあの易者の妖術のせいで客が減ったとこれまで苦情を述べた宿の主を集めて、何とかしなくてはなりませんな」
「では、これからわたしが仲間を呼んで参ります」
「では、わたしはこれからあの易者を捕まえにいきますから、役所に引っ立てたあと、あんたは仲間と一緒に奴の悪行の証を示してください、さもないとこれからも客は来ませんよ」
「はいはい、わかりました。そうみんなに言い聞かせます」
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