では次に中部河南省のお酒にまつわるお話をご紹介しましょう。
このお酒は、河南省東部の鹿邑(ろくゆう)県というところ造られたもので、河南一帯ではむかしから鹿邑の美酒として伝えられてきたそうです。
題して「不思議な溝の水」です。
「不思議な溝の水」
河南ではむかしから、鹿邑の酒は一献飲むと三日はその味を忘れられないとされ、一口飲めば、その味と香りは長く残ると人は言う、では鹿邑の酒はどうしてうまいのか?うん、こんなことがあったそうな。
いつのことかははっきりせん。鹿邑の北にある町に趙さんという金持ちが住んでいた。趙さんは七十幾つになってもかなり元気で、顔色はよく、眼や耳もしっかりしていて、話す声も大きく、出かけると若者のようにすたすたと歩くので、町の人々はうらやましがった。
「これは趙さん、またお出かけかい。それにしても顔色がよく元気だねえ。七十幾つとはほんとに思えないよ」
これを聞いて趙さんはうれしくなるのは当たり前。
「はははは!いやいや、そんなに元気に見えるかい。うん、自分ではそうは思わんが、体のどこもおかしいと感じたことはないねえ」
「趙さんよ。いったいあんたどうしてそんなに元気なんだい?なんか秘訣でもあるのかね。教えてくださいよ」
「え?秘訣?そんなものはありませんよ。ただ、お酒を毎日嗜んでるだけだよ」
「え?それだけかい?」
「それだけさ」
趙さんはこうこたえるが、確かに趙さんは酒が好きだ。それも一日三度の飯時には必ず数杯引っ掛けるというありさま。で、趙さんはちょっと変わっていて、家には酒は置かない。ということは毎日、酒屋に人をやって買いにいかせている。
さて、趙さんのうちには若い下男がいて、この下男が毎日、趙さんの飲む酒を買いに行くのだった。といっても朝飯の酒は前の日に残したものだが、昼と夜飲む酒は、下男が町のはずれにある酒屋に買いにいく。実はこの下男も酒が好きだが、主の趙さんのように毎日飲む金はない。そこで、酒屋で酒をひょうたんに詰めてもらい、帰る途中で一口、二口とひょうたんの酒を盗み飲みしておった。
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