今度は、「稽神録」という本から「杜魯賓」です、
「杜魯賓」
杜魯賓は建康というところで薬を売って暮らしていた。
で、店には豫州の生まれだという客がよく来たが、いつも金はあとで払うという。しかし、主の杜魯賓はいつもにこにこして「いつでもいいよ」とこたえていた。
ある日、豫州の客がまたきて、多くの薬を買うといい、主の杜魯賓に「あんたには随分借りが出来たものだ。実は今日ここで薬を買ってから西へ帰る。そして一儲けしたあとここに戻って来てこれまでのつけを一緒に払うがいいかね」と言う。そこで人のよい杜魯賓は、ああいいともとこたえた。
それから何年かが過ぎ、かの豫州の男が来て、何も言わずに大きな十本の桃の木を置いてどこかへ行ってしまった。
杜魯賓はしかたなく、この十本の桃の木のうち、三本をのこし、残る七本を友達に売った。
ある日、杜魯賓は残った桃の木を薪にしろと店の者に割らせたところ、それぞれ中から、鉄の入れ物らしいものが出てきた。この入れ物は五六寸もあり、いずれも八つの足が付いていて、かなり細かい造りであった。これをみた杜魯賓はこれがなんだかわからない。使い道も知らないことから、仕方なく人にあげてしまった。
ところで、杜魯賓は自分の住まいが傷んだので修繕することにした。するとある日、一人の大工が来て家のあちこちをきれいに直してくれた。喜んだ杜魯賓は、かなりの銭を大工に渡したところ、大工は「わしには何もないが、これを取っておいてくれ。もしかしたら使い道があるかもしれない」といって白い土を詰めた箱を残して去っていた。欲のない杜魯賓は、何のことかわからず、この箱をしまっておいた。
数年後のある日、なんと杜魯賓の家が店と共に焼け、財産らしいものはみんな灰と化してしまった。
これに杜魯賓、かなり落ち込み、どうしようと嘆んでいた。しかし、どうしようもないので焼け跡をもう一度さがしてみたところ、いつか大工がくれた箱が焼けずに残っていた。そこで、なんとなく箱を開けてると、中に入っているのはいつか見た白い土ではなく、ぴかぴか光る金であった。それに一枚の紙切れが入っている。それには「金の中に亀が埋めてある。亀を大事にしまい、残った金で商いをされるがよい」と書いてある。そこで杜魯賓が箱の中を掘ってみたところ、中から赤みのかかった石亀が出てきた。杜魯賓は、この紙に書かれたとおり、これら金を使って家を建て直し、また薬屋をはじめたところ、店はもとより繁盛し、杜魯賓はそれから豊かに暮らした。もちろん、杜魯賓は暇があれは、かの石亀を取り出し拝んでいた。
それから数十年たった。歳をとった杜魯賓があと残り少ないというある日、夢を見た。夢にはむかし薬を買った豫州の客が現れ、「あの時は本当にお世話になった。石亀はそのときのお礼だ」といったとさ。
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