旧暦の8月15日、中国では「中秋節」を迎えます。西暦でいえば、今年は10月6日に当たります。この日、地球が月に一番接近するため、月が大きく、はっきり見えると言われています。
この日は、「一家団欒」の日で、家族全員が集まり、食事をしたり、この日に欠かせない中国伝統のお菓子「月餅」を食べたりします。そして真ん丸なお月様を眺めるのが一般的な風習です。ところが、ある少数民族は、ちょっと変わった風習を持っています。
それは、湖南省、湖北省、重慶直轄市などに住む土家(トゥチャ)族です。総人口は600万人ぐらいで、民族の言葉を持っていますが、文字は漢字を使っています。
その「変わった風習」とは、「カボチャを盗む」というものです。中秋節には、親戚や友達が集まり、一緒に夕飯を食べますが、夜中になると、何人かがこっそり家を出て、他人の畑に潜り込みます。そして、大きくて丸いカボチャを選んで、赤い布に包んでから、持ち去ります。翌日、畑の主はカボチャがなくなっているのに気づいても決して怒りません。
実は、その「盗まれた」カボチャは、彼らの手で、子供がいない家族に届けられたのです。赤い布に包まれたカボチャには、「来年、この家に子供が生まれるよう」という願いが込められています。
この風習に次のような伝説から始まったとされます。
昔々、勤勉で心の優しい老夫婦がいました。ある日、乞食の老婦が訪ねてきました。老夫婦は自分の家も貧乏であるにもかかわらず、老婦にお米をあげました。そこで老婦は代わりに、一粒のカボチャの種をあげました。その種を植えてみると、なんと、あっという間に苗が生え、ツルまで出てきたのです。そして翌日には、花が咲きました。さらに三日目、真ん丸なカボチャができました。8月15日、つまり中秋節の夜、老夫婦は大きくなったカボチャを家の中に運んだ途端、カボチャが突然割れました。そして中から、可愛らしい男の子が出てきたそうです。老夫婦は、授かった男の子を大切に育てました。
その後、いつごろからか分かりませんが、土家族の間では、中秋節の夜に「カボチャを盗む」ことが、風習となりました。
もう一つ、風習の始まりには、説があります。カボチャは中国語で「南瓜」と言います。この「南」と「男」の発音が同じ(nan)なので、「男の子が生まれる」という意味で、縁起がいいとされているわけです。
(担当:藍暁芹)
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