これを聞いた御者はびっくり。何か言い返そうとしたが妻が泣いてしまい、自分でよく考えて見なさいとまた言われたので、黙ってしまった。そしてその夜はなかなか眠れず、妻の言うことはまことに理にかなっていると、これまでの自分の考えを後悔し始めた。
それからというもの、自分の間違った考えを悟ったこの御者は、過ちを改めるため、普段から謙虚に振舞うことに努め始めた。この御者の変わりよう気づいた晏子は、馬車に乗っているときに、御者に聞いてみた。
「近頃、お前の様子は少し変わったようだが、どうかしたのか?」
「これは宰相さま。これまでのご無礼をお許しくださいまし」と自分の妻に言われたことなどをありのままを話し、そしてまた晏子に許しを乞うた。
これをきいた晏子は、笑って答える。
「はははは!お前がそれを悟るとはたいしたことじゃ。己を過ちがわかり、それをすぐにでも改める行いはとてもよい」
「恥ずかしいことでござります」
「なになに。それにしてもお前はよき妻を持ったものじゃのう。賢く物分りがよい」
「とんでもござりません」
「これも賢い妻のおかげじゃと思え」
「はは!わたしめもそう思いまする」
こうしてこの御者は、人が変り、晏子は自分の誤りをいち早く認め、それをいち早く直そうとしたこの御者を他の目で見るようになり、のちにこの御者を抜擢したので、この御者は出世したという。
その後、このことが言い伝わり、家に賢い妻がいて、夫の出世と成功を助けたことを「内助の賢」というようになったそうな。
|