那家小館は紅葉の名所である香山の麓にあり、その向こうには、春のピクニックのメッカとされる北京植物園が広がっています。
北京植物園正門玄関の向こう側にあるというので、たぶんすぐ見つかるだろうと思い込んでいましたが、本当行くころとなると、気づかないまま、二回も店の前を通り過ぎてしまいました。やっぱりこっちの店も、プライベートの味が十分あり、外観としては、あまり目立たないのです。
近づいてみると、普通の民家を改築した二階建ての建物です。店のご主人は那という苗字の満州族の方です。
店の窓越しに、香山の頂を眺め、悠々自適なひと時を過ごすことができます。店が提供する料理は私たちが普段馴染む味と、どこかちょっぴり違うようなものです。
ここのメニューは普通の紙に印刷したものではなくて、木の札に書いたユニークなものです。たくさんの木の札が大きな箱に並べてあります。ご主人に話によりますと、この札は吃食牌というもので、昔、満州族の貴族の家で、厨房に主人の要求を伝えるのに広く使われていたということです。それを手にとって、なんだかすごく贅沢な王侯気分になっておかずを注文しました。
このレストランは、200年あまりの歴史を持つ那氏家の家庭料理を基礎に、漢民族の料理の特徴も取り入れてできたメニューを提供しています。店のご主人は、北京の最高級レストラン、貴賓楼でシェフを勤めた経験もあるそうです。
私は店の看板メニューとされる「皇壇子」、それに、揚げ蝦"秘制酥皮蝦"などを試食しました。この皇壇子はフカヒレや、サメの口周辺のコラーゲン質、鶏肉、ハム、貝柱、鹿のアキレス腱、それに野生のキノコなどの高級材料をふんだんに使って、長い時間をかけて煮込んだ黄金色のスープです。この料理の起源について、ご主人は、こんなことを語ってくれました。
「昔、満州族は狩猟民族だった。みんなで捕ってきたものを各家族が分かち合う習慣があった。そして、戦争のときに、一つの鍋にいろいろな食材を入れて、みんなで一緒に食べた。そして、中国全土を治めたあと、私たちの祖先だった将兵とその家族は香山の麓に定住するようになり、毎年、旧暦の1月15日に、村人たちは、皇帝から賜ったものを受領し、山の珍味や海の幸を全部大きな鍋に入れて煮込む。できたスープを各家族で一缶ずつ分けて食べた。このように皇帝の恩を忘れないように、スープに「皇壇子」と名づけた。」と話しました。
しかし、このような宮廷料理のイメージもするプライベートレストランですが、その値段は意外とあまり高くはありません。店の経営理念について、那さんは、
「今、市場で流行っている宮廷料理はほとんど少数派向けのもので、非常に高級なイメージがあるが。私はもっとたくさんの人にサービスしたい。宮廷料理は中国料理の粋である。私はこのレストランで、宮廷料理と満州族の伝統料理をよく結びつけて、気軽でゆっくりしたくつろぎの場所を提供しようと工夫している。」語りました。
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