日本の方々はたぶん面白いなと思われますが、中国では、チェスや、囲碁、それから中国将棋など・・全てスポーツの中に入ります。新聞でもこれらのニュースはスポーツ面に掲載されおり、またチェス、囲碁をする人のことは選手と呼びます。いわば頭のスポーツということです。もちろん卓球ほどの人気はないのですが、チェスの愛好者は非常に多く、小さい頃からチェス選手を目指す人も少なくありません。
日本の将棋界と同じようにアマチュアとプロが厳格に分けられている中国のチェスなんですが、どちらかというと女子のほうが強いです。3月25日まで行われていた2006年女子国際チェス選手権で、一人の中国女性は世界ナンバーワンプレーヤーとして登場しました。許ユ華選手です。
この世界大会で、許選手はロシア勢を初めとするベテラン選手6人を次々に下し、中国3人目の世界チャンピオンとなりました。
では、許ユ華さんはいったいどういう女性なのか、彼女はどうやって世界チャンピオンになったのか、今週はこの女子チェス世界チャンピオン、許ユ華選手にスポットをあてます。
許ユ華さんは、中国南東部の浙江省の生まれです。ここの地方の女性は昔から、静かで穏やかな性格を持っていると言われています。許ユ華さんはまさに静かで穏やかな性格の持ち主なんです。だから忍耐力と平常心がとても重要なチェスに向いているというわけです。
チェスとの出会いについて、許選手はこう語っていました。「6歳からチェスを始めました。初めてチェスを教えてくれたのは父です。これでも、チェスとの出会いは少し遅いほうなんですよ。初めて、チェスをしたときは楽しかったです。囲碁とは違って、駒が立体的でしょう。あれが面白くて、チェスが好きになりました。ただ、一定レベル以上になるのはやっぱり大変でした。工夫も必要になりますしねー。」
13歳のとき、中学校一年生ごろですが、許選手は国家代表の予備チームに入ることができました。その後、1995年に中国ユース大会優勝、翌96年にはアジア大会優勝。そして2000年にはワールドカップとチェスオリンピック団体戦を制しました。さらに、今回、世界選手権で優勝ということで、史上初めて、主要な世界大会3つを制する「3冠」を達成し、文句なしの女子世界一の座につきました。
ところで、中国には許さんの前に、二人の世界チャンピオンが誕生しています。謝軍選手と諸シン選手です。もちろん、3人ともチェスの力は超一流ですが、イメージは全く違います。
一人目の世界チャンピオンとなった謝軍さんはどちらかというと、少女のような天真爛漫なタイプ。普段は穏やかな感じですが、話し方や笑顔が非常に印象的な女性でした。二代目の諸シンさんはすらりとした美人で教養も抜群。メディアからも大変注目されていました。
二人の先輩に比べて、許ユ華さんはあまり感情を表に出しませんし、口数も少ないタイプです。しかし、彼女は書くほうでは一流なんです。すでにいくつかの新聞や雑誌で連載をしていて、文字の世界でも才能を見せています。これについて、中国国家チェス代表の葉江川コーチはこう話しました。「許ユ華の家庭はかなりのインテリ一家なんですよ。たしかお父さんは学校の先生ですね。おしゃべりはあまりせず、寡黙ですが、文章は一流です。あと、なんといってもお勉強がよくできるんですよ。」
実は、彼女はチェスで一流となっただけではなく、学問にも長けています。すでに北京大学法律学科の学士課程を終え、今度は同じ北京大学国語学科の修士課程に進みたいと考えています。でも、ただでさえ、綿密な研究とトレーニングが必要なチェスの世界。勉強とどのように両立させているんでしょうか。
「難しい点もあれば、逆に助けになったこともありました。難しいのは時間の調整ですね。北京大学に通った数年間はとても大変でした。プロの選手だからといって減免してもらえる単位はほとんどなく、普通の学生と同じように授業を受けないとだめです。結局、卒業するのに5年間もかかってしまいました。でも、大学での勉強を通じて、少ない時間をいかにうまくやりくりするか、ということ、高い集中力が身に付きました。今後の競技人生に役立ちます。」
ここで、もう一つ、許選手の人柄が分かるエピソードなんですが、実は今回の世界選手権のとき、許さんは、すでに妊娠4ヶ月でした。飛行機の長旅、競技のストレス、時差による生活リズムの乱れ、どれも妊婦さんにとってはマイナス要素ばかりですが、そんな状態でも、世界選手権だけは絶対に出場する・・という許ユ華さん。ご主人の劉菁さんもかなり心配していたようです。「彼女がいくといって聞かないものですから・・。とりあえず、お医者さんに何度も確認して、妊娠4ヶ月のこの時期ならば、まだ大丈夫だろうというお墨付きが出て、ようやく試合出場を決めたんです。」
実はこの劉菁さんは有名な囲碁の選手です。サッカーや、バスケットも好きなスポーツマン。許さんと性格は少し異なるように見えますが、夫婦として、そして同じ勝負の世界にいる同志として、お互いに理解しあい、助け合っている素敵なカップルです。許選手が世界選手権で勝てたのも、そんな劉さんの助けがあったからこそなのかもしれません。「競技期間中、私たちは、携帯電話のショートメールで連絡を取り合っていました。電話をすると、彼女の集中の邪魔になると思いましたから。実際に話をしたのは、決勝戦が終わったあとだけです。」
そんな許さんの今後なんですが、今、まさに妊娠中、そしてこれから最も大切な時期に入ることから、今年下半期に開かれるチェスオリンピック・国別対抗戦には出場しません。ただ、新チェスの女王として多くの注目を集めていくのは間違いもありません。でも、彼女はその点については非常にマイペースです。
「私はこれまでと何も変わりません。世界チャンピオンになったからといって自分の生活を変えなければならないことはないでしょう。私は私で、これまで通り、チェスを楽しみます。外から邪魔をされたくありません。心の中の落ち着きを保ってさえいれば、生活もそれほど変わらないと思います。」(文章:王丹丹)
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